第30章 石に花咲く鬼と鬼
呼ぶ声に呼応するように、ほんのりと温かい何かが触れる。
人肌のような、ほっとするような優しい温もり。
ようやく触れられた見えない何かを抱き寄せて、蛍は嗚呼と息衝いた。
聞いたことがないよで知っている。
その声は、
──誰かを、捜しているの?
愛するものを呼ぶ声だった。
❉ ❉ ❉
覚束なくふらふらと揺れ動く。
半透明な体を萎ませながら、のびあがりはひしめく吸血木の枝に身を寄せた。
抜き出した血のように赤い一つ目玉はそのままだが、体の大きさも纏う腕の数も小さく細い。
鬼太郎の強烈な電撃をまともに浴びて、随分と体力も消耗してしまった。
風の流れに身を任せていた細い腕が、不意に枝へと絡み付く。
うねうねと蛇のように進行を進め辿るは枝の先の太い幹。
人間の掌と同じ形状をしていたそれがぐにゃりと揺れ動くと、やがては鋭い針のような先端へと変貌した。
幹の弱い箇所を探すようにして、ぶすりと深く突き刺す。
するとどうだろうか。半透明な発光体の体がどくりどくりと赤黒い色に染まり始めた。
ゆっくりと空気を吸い込んでいく風船のように、萎んでいた体が張りを取り戻していく。
触手の腕は蛇のような細身から人の腕程に太さを変え、窪んでいた一つ目玉がぎょろりと回る。
反比例するように、幹に針を突き刺した吸血木はしおしおと赤黒い葉を枯らしていった。
枝を下げ、幹は瘦せ細り、葉は落ちていく。
細い枝では膨らんでいくのびあがりの体を支えるのは難しく、きしきしとか細い悲鳴を上げた。
ぎょろりと剥き出していた目玉が細まり、三角の形へと歪む。
まるでにんまりと嗤っているかのように。
「成程なァ。吸血木はお前の餌って訳か」
誰もいないはずだった。
人影のないその場に響く声に、途端にのびあがりの動きが止まる。
唯一の目玉だけがぎょろぎょろと辺りを忙しなく彷徨い、声の主を捜した。
「ンなあちこち捜したって見つかりやしねぇよ」
見えているのか。のびあがりの反応に、姿無き声がハンと笑う。