第30章 石に花咲く鬼と鬼
今にも衝突せんとする二つの姿を、空から見る者があった。
ふわりと浮いた体は大きく広げて風を巻き込んだちゃんちゃんこに乗って。
両手で掴んでいた霊毛の端を不意に離す。
のびあがりと杏寿郎が衝突する直前。真上から落下した鬼太郎の体が、すとんとその発光体に着地した。
──パリ、
肌の上を走る微弱な電気。
両手を広げてぴたりとのびあがりの背に触れた──瞬間。
「"体内電気"」
雷が落ちたような轟音を立てて、のびあがりの体中に強力な電流が走った。
「オオオォオオォォオオ!!!!!」
「む…!?」
今まで風の呻りのようにしか聞こえなかった叫びが耳をつんざく。
目の前で閃光を走らせ感電するのびあがりに、振り下ろそうとしていた刃を寸でで杏寿郎は止めた。
体内に溜め込んだ電流を触れた相手に流し込む。それが鬼太郎の持つ強力な技の一つだった。
ばりばりと空気を裂くような轟音を立てて電流はのびあがりを襲った。
「よくやったぞ鬼太郎!」
「成程…これは親父殿を傍に置けないな…」
発光体が電流により花火のように輝きを増して轟く。
その眩しさに目を細めながら、杏寿郎は近くの屋根に着地した。
電流などただの人間が喰らえば最悪心臓を止めてしまう程の恐ろしいものだ。
それを体内に溜め込んでおけるなど。
改めて鬼太郎が人外であることとその威力のすさまじさに目を見張りながら、杏寿郎も握っていた刀を下ろした。
結果は見えた。
強力な放電は唐突に終わった。
体内の全ての電気を放った鬼太郎が、息を乱しながら両手を離す。
黒く焦げ付いたのびあがりの体は見るも無残に焼け爛れ、白い煙を上げている。
「これで、どうだ…っ」
放電が止まると同時に、ふらふらと風に漂うようにのびあがりの体がゆっくりと降下する。
力を失くした無数の手は暖簾のように漂い、力なく地面へと這い擦った。
──かと思われた。
ぎょろりと赤黒い目玉が血走る。
「鬼た…!」
はっと悟る目玉親父の声よりも早く、奮い立つようにのびあがりの体が大きく仰け反り飛び上がった。
突然のことにしがみ付くこともできなかった鬼太郎の体が背中から弾き落ちる。