第30章 石に花咲く鬼と鬼
近くに浮遊する一反木綿の姿は見えない。
宙に二人が浮いているのは恐らくのびあがりの所為だろう。
最悪見えないその手に捕まっている可能性がある。
「とにかく二人を助け出す。朔ノ夜!」
杏寿郎が呼べば、足元の影からとぷりと小さな金魚が姿を現す。
指示される前にむくむくと体を巨大化させると、従うように杏寿郎の傍についた。
「巽青年は此処で待機するように。鼠男殿を頼んだ」
「わ、わかりました!」
「お、おい待て危険だぞ! 一瞬で一反木綿も木にしやがった奴だ!!」
「…成程」
「じゃああの木が…もしや一反木綿なのか…?」
鼠男の指摘に、逆さまに突き刺さっている吸血木の正体がなんであるのか杏寿郎と目玉親父は瞬時に理解した。
空から落ちてきた為に根を天に向けている恰好となっているのだろう。
その正体は木綿の妖怪、一反木綿である。
「吸血木は種を体内に取り入れることで寄生されるはずじゃが…一瞬とは…」
「木綿の彼は事前に種を仕込まれていた可能性があったのかもしれないな」
「一反木綿は鬼太郎が呼んだんじゃ。儂らより後に来たはずなのにどうやって…」
「俺は妖怪に詳しくはないが…俺の知る鬼には、歌によって種を植え付ける能力を持つ者がいた」
「そうなのか?」
京都の任務で出会った華響という鬼がそうだった。
歌により効果を発揮するとあらば、何も知らない者であれば簡単にその侵入を許してしまう。
その経験もあって捜索の間は至るところに警戒を強めていた杏寿郎だが、奇妙な音のようなものは何も拾わなかった。
「のびあがりにも特有の能力があるのかもしれない。親父殿は俺の髪の中に隠れていてくれ」
「う、うむ。じゃが相手は妖怪種族に近い生き物じゃ。気を付けて行くんじゃぞ!」
「ああ」
牛のように巨大化した朔ノ夜の扇のような鰭に乗れば、無い波に乗るように黒い魚は空へと舞い上がった。
目視できる蛍と鬼太郎はかなりの高さにある。
其処から落ちてしまえば鬼と妖怪と言えども無傷ではいられないだろう。
「二人の救出が先決だ。親父殿、掴まっていてくれ!」
「うむ!」