第30章 石に花咲く鬼と鬼
──ドンッ!!
空気を割るような音だった。
唐突に響いた衝撃に、一気にその場に緊迫感が走る。
三人の耳に届いたのは鈍くも鋭い音。
反射で振り返った杏寿郎の視界に飛び込んできたのは、数十m先にある一本の吸血木だった。
「あれは…ッ?」
しかし様子が可笑しい。
本来なら天に手を伸ばすように枝を広げている吸血木だというのに、それは根を天に向けて立っていた。
否。逆さまの状態で衝突したであろう垣根に突き刺さっていたのだ。
「あんな吸血木は先程までなかった。急に何処から──」
「上じゃ!!」
空を指差し声を上げる目玉親父に、杏寿郎と巽の視線も上を向く。
すぐに異変は感じ取れた。
巨大な風呂敷と化したちゃんちゃんこが空を覆っていたのだ。
それも束の間、何かを包み込むようにぎゅるぎゅると巻き付き丸まると高速で落下してくる。
それは垣根に突き刺さった吸血木の傍らにドン!と衝突した。
「あれは鬼太郎少年の…!」
駆け寄りながら見覚えのあるちゃんちゃんこに、杏寿郎だけでなく肩にしがみ付く目玉親父もその目を剥いた。
「鬼太郎ォ! 大丈夫か!?」
「イデデ…ッ」
「むっ?」
衝突から身を守ったのか。
するすると萎んでいくちゃんちゃんこの中から現れた者は生きていた。
しかし誰もが予想した目玉親父の一人息子ではない。
強かに打ち付けた尻を擦りながら涙目で現れたのは鼠男だ。
「お主なんで…ッ」
「あ? お前ら…ってことは此処は地上か!? ひゃー! 助かった!! オレ様もう二度と空なんか飛ばねェからなァ! 鼠は地面を走ってナンボよ!!」
其処が願った場所だと理解した途端、地面に頬擦りしながら鼠男が歓喜する。
「助かった」とはどういうことか。
鼠男に理由を問い質そうとする目玉親父より早く、杏寿郎は再び天を仰いだ。
「! あれは──」
薄暗くとも至る所に明かりの灯る町。
其処から見上げる夜空は綺麗な星空を隠してしまうが、他のものはよく見えた。
鬼太郎と蛍であろう人影が二つ。
一反木綿も鴉も見えない状態で、何故か宙に浮いている。