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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第30章 石に花咲く鬼と鬼



「胸を張れ、煉獄君。出会いは短いが、お主は儂が今まで見てきた中で誰よりも真っ直ぐな人間じゃ。じゃから蛍ちゃんもああもお主を信じておるのじゃろう」

「……」

「蛍ちゃんだけではない。巽君もそうじゃし、君の使いだというあの鴉もそうじゃ。周りの者達がお主というものの在り方をしかと体現しておる」


 相槌すらも打てない杏寿郎の沈黙を、目玉親父は気にしなかった。
 ぽんぽんと鼠のような小さな手で、労うように杏寿郎の指先を叩く。


「じゃからお主はそのままでいい。変に構えることも、無暗に正しく在ろうとする必要もない。今のままの煉獄君が儂は好きだからのう!」


 杏寿郎の心の片鱗を汲み取るように。しかしそんな細やかな気遣いを匂わせることもなく、目玉親父はからりと笑った。

 とても小さく、そしてとても大きな掌に背を押されたようだった。
 沈黙を守り続けていた杏寿郎の口角が緩む。
 ふ、と安堵のような吐息をついて、見開いた瞳を細めた。


「…親父殿は…真の親父殿だな…」


 か細い声が柔く笑う。
 綻び浮かぶ細やかな微笑みに、目玉親父は再びえへんと胸を張った。


「うむ! お主のような息子がおればとても誇らしいじゃろうて!」

「いや、俺には勿体ない程だ。親父殿は鬼太郎少年の父として責務を全うしてくれ」


 習うように、うむと頷く。
 顔を上げた杏寿郎に先程までの繊細な表情は無い。


「俺には俺の父がいる。親父殿の言う通り立派な御人だ。その人が俺の父であることだけで、十分俺の誇りなんだ」


 真っ直ぐに上がる眉尻に、強く固い意思を感じさせる双眸。
 それが幸せでならないと言うかのように噛み締め告げる杏寿郎に、胸を張った姿勢のまま目玉親父はひとつ笑った。


「そうじゃろうて」


 入り込む余地など無い程に、強い思いを垣間見て。

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