第30章 石に花咲く鬼と鬼
「鬼太郎もまた、例え幽霊族ではない妖怪の端くれとして生まれようとも、はたまた人間として生まれようとも、儂にとってたった一人の大切な息子ということに変わりないんじゃ。それだけは揺らぐことはない」
「揺らぐことがない、もの」
「うむ! 妖怪や人間という枠組みはちっぽけなものでしかないんじゃよ。どうであっても鬼太郎は儂の自慢の倅じゃからのう!」
けらけらと胸を張って笑う相手は小さな目玉の小人。
どこからどう見ても異端な存在でしかないものなのに、そこから杏寿郎は目が離せなかった。
息子そのものの枠組みがなんであろうと愛することに変わりはない。
小さな体から溢れんばかりの父としての愛情を注ぐ姿は、言いようもなく大きなものに見えた。
父なのだ。
目玉一つになろうとも、力のない小人のような姿に成り果てようとも、彼は父親なのだ。
青天の霹靂のように。まるで目の前の分厚い曇り空が晴れていくような気さえした。
「…それが父というもの、か…」
固く結ばれていた口角が、ふと緩む。
眉尻を下げて仄かに笑う杏寿郎の肩が、力が抜けたように落ちた。
「少年は幸せな息子だな…」
「そうか? 儂には普通のことじゃと思うが…」
「普通、か」
か細い語尾は吸い込まれるように夜の静寂に消えていく。
被さる杏寿郎の影の中で見上げたまま、目玉親父はぱたぱたと小さな両手を振った。
「いや、儂の言い方が悪かった。それが親子というものじゃと思っとる」
「うむ。それこそ立派なお考えだと俺も思う」
「煉獄君もそうじゃろう?」
「?」
「それが父というものかと告げたお主の顔。何も知らぬ子供の顔ではなかったぞ」
敬い。焦がれ。噛み締めたのは、何も知らない子供だったからではない。
それが親の愛だと知っていたからだ。
「お主のことは何も知らぬが、父君もきっと立派な人間だったんじゃろう。でなければそんな顔はできまい」
それだけの思いを惜しみなく与えられたからこそ、愛されることがどれだけ幸せなことなのかを知っている。
知っているからこそ、浮かべられる表情(かお)を彼は確かにしていた。