第30章 石に花咲く鬼と鬼
「親父殿の血を分けた息子が、時に許し難い醜さをも持つ異種の者と向き合おうとしている。そのことに関しては何も感じないのか?」
小難しいことを口にしながら、その問いに躊躇はない。
真剣に向けて来る視線は目玉親父を見ていながら、その先に何を見据えているのか。
蛍と同じ赤い瞳を杏寿郎へと向けたまま、目玉親父は爪楊枝のように細い手で腕を組んだ。
「なんとも遠回しな言い方をするもんじゃ。つまり幽霊族…妖怪とは違う生き物である人間に近付き過ぎることに異論はないのかと、そう訊きたいんじゃな?」
「む…ああ、そうだ」
静かに頷く杏寿郎の背中を見ていた巽は声もなく驚いた。
炎柱の煉獄杏寿郎と言えば、竹を割ったように気持ちのいい言葉や感情を見せる男だと認識していたからだ。
その彼がなんとも言葉を濁し、しかし巽の知らない顔で目玉親父の言葉を一語一句拾おうとしている。
「ふーむ。そうじゃのう…心配は無いと言えば嘘になる。鬼太郎は儂の可愛い可愛い倅(せがれ)じゃ。できることなら辛い思いや苦しい生き方はして欲しくない」
妖怪より寿命も短く力も弱い。しかし地球上で誰よりも知能を発達させたその生き物が生み出すものの恐ろしさも知っている。
何より人間は貪欲だ。その尽きない欲を持つが故に生態系の頂点にまで上り詰めたと言える。
そんな人間と深く関わることは危険も伴う。
現に人間を全面的に敵対視している妖怪も少なくはない。
妖怪は昔から自然や人間と共存して生きてきた。
異種だからと排除しようとする傾向が強いのは人間の方なのだ。
「それでも儂の息子が選んだ道じゃ。その可能性を親だからという理由で潰したくはないし、もっと広い世界をあの子には見て、感じて、成長して欲しいと思っておる」
えへん、と腰に両手を当てて胸を張る。
小さくとも一つの命の親である目玉親父の姿勢に、杏寿郎も目を見張った。
「儂を見ろ、煉獄君。昔はそれなりに立派な身体も持っておったし、誇りある幽霊族の末裔じゃった。それが今やたったの目玉一つ。それでも儂が鬼太郎の父親であることに変わりない」