第30章 石に花咲く鬼と鬼
「儂は幽霊族じゃからのう。人間の時の感じ方などわからん。じゃがそれなりに人間とは付き合ってきたから感じることもある。お主はどうじゃ? 人間だから、鬼よりも寿命が短いから、そう己の人生を足早に感じて生きてきたのか?」
諭すようでありながら、杏寿郎の親指に小さな掌を乗せて尋ねる目玉親父の声色は温かかった。
己の親指よりも遥かに小さな、赤ん坊よりも矮小な掌。
しかし父である槇寿郎に遥か昔、頭を撫でられた時のようななんとも形容し難い温かさ感じた。
「違うじゃろう? お主にはお主の、蛍ちゃんには蛍ちゃんの見えておる景色がある。その長さは違っても決して差異などない。誰しもに無二のものじゃ」
それは形には無い、包み込むような大きな温かさだ。
「…親父殿の言う通りだな。すまない、つまらないことを訊いた」
「何を言う。つまらなくなどあるものか」
反論など一つもない。
目玉親父の言葉を素直に噛み締めて頭を下げれば、小さな小人は大きな声で頸を横に振った。
「それだけ真摯に蛍ちゃんに向き合おうとしておるんじゃろう? 立派なことじゃ!」
「…彩千代に、ですか…?」
目玉一つだけだというのに、にこにこと笑顔を浮かべているような感情の起伏が伝わってくる。
あっさりと目玉親父に蛍との関係性を見透かされた気がして、杏寿郎は思わず口を閉ざした。
きょとんと頸を傾げている巽だけが一歩置き去りにされた状態である。
「お主は鬼太郎に似ておるのう」
「…鬼太郎少年?」
「素っ気ない態度は取るものの、結局は目の前の人間を助けずにはおれん子なんじゃ。己とは違うとわかっておりながら向き合い続けておる。お主が蛍ちゃんに向き合い続けておるようにのう」
「しかし…俺は悪鬼の頸を狩る者でもある」
「うむうむ。鬼太郎とてそうじゃ。私利私欲に塗れた人間にまでは手を差し伸べん。自業自得だと見捨てたこともある」
「それは真か?」
「うむ! 儂がこの目で見たものに嘘はつかん」
「親父殿は、それでもいいと?」
「ふむ?」
先程の闊達さは消え、問いかける杏寿郎の顔から笑顔も消えている。
しかし訴えるような視線は至極真剣なもので、こてんと目玉親父は頸を傾げた。