第30章 石に花咲く鬼と鬼
「大丈夫か親父殿!!」
「み、耳に響く…! 近くでそんな大声を出さんでくれ!」
「はははっ親父殿の耳はどんなものだろうな。面白い!」
よろよろと掌の上で立ち上がる。
そんな目玉親父を興味深く見守る杏寿郎に、巽は一人肩を落とした。
「そんなことより炎柱。いつまで捜索を…?」
「概ね片は付いた。吸血木の浸食の恐ろしさはあちこちで垣間見たが、肝心の種を蒔く妖怪は見つけられなかったな」
「…いるんですか? 本当にそんな妖怪」
杏寿郎の脚力を持ってして町中の捜索は迅速に進んだ。
どうにかついていくだけで精一杯だった巽は疲労困憊状態だ。
しかし肝心の黒幕は何も痕跡が見つからない状態である。
「一本や二本なら偶然の寄生もあり得るが、ここまで大量の吸血木が散布しておるのは不自然じゃ。明らかに意図的な手がかけられておる」
「そこまで確証があってなんで散布した妖怪の目星はつかないんだ?」
「うーむ…ないこともないんじゃがのう…」
「そうなのか? 親父殿」
「うむ。実は吸血木が人間を襲った場に遭遇したのは一度だけではないんじゃ。戦国の世にも一度見ておる」
「せ、戦国っ? 五百年も昔の話じゃないか」
巽の疑問に渋るように答える目玉親父。その経験は五百年も遡るという。
驚きを隠せない巽の隣で、杏寿郎もまた感心したように目の前の小さな小人を見た。
小人のような小さきものだが、その者が抱えて生きた年数は何百年にも及ぶ。
それはまるで鬼のように。
「…親父殿」
「なんじゃ?」
「数百年の時を生きるとは、一体どのような感覚なんだ?」
純粋な興味だった。
その興味が湧いた理由はただ一つ。
同じ時を生きることができる蛍の感じる世界を、知りたかった。
「親父殿にとって人間の寿命は瞬くようなものなのだろうか」
「炎柱? それより吸血木の話を…」
「むっ…すまない、話を逸らしてしまった」
その問いに巽が頸を傾げれば、いけないと頭を切り替えた杏寿郎が自ら口を閉ざす。
たった一つの目玉でじっとその顔を見上げていた目玉親父が、掌の上で一歩踏み出た。