第30章 石に花咲く鬼と鬼
見覚えのある妖怪なのか。
蛍が鬼太郎の先の答えに耳を傾ければ、ざわりと届いたのは葉のざわめき。
先程は森の中のような吸血木の傍を飛んでいた為に耳障りな程に響いていた。
しかし今は遥か上空だ。
何故ざわめきが聞こえるのか。
近くを飛ぶ鴉達の羽音でないことは、鎹鴉を共とするからこそわかっていた。
なら一体これは。
「き、鬼太郎くん」
ざわざわと葉が擦れ合う呻きは鬼太郎の声でさえも掻き消す。
黒と黄のちゃんちゃんこをぎゅっと握れば、異変を感じた鬼太郎が目を止めた。
「蛍さん?」
「葉音が煩くて、よく聞こえない…」
「何を言って…」
「オ、オイ。どうしたよ」
「はおと? 羽音ねっ? 鼠男、鴉の羽音が煩いって蛍ちゃんば言いよるとよ!」
「はァっ? 羽音なんざ最初から鳴ってただろーが!」
「そうじゃなくて…鴉は、関係ない…」
「ほらよ! 鴉は関係ねぇってソイツも言ってんじゃねェか!」
「二人共静かにしてくれッ」
片耳を押さえる程にざわめきが煩いと蛍は言う。
しかし鬼太郎も鼠男も一反木綿も、鴉の羽搏き以外の騒音は耳にしていない。
騒ぎ立てる二人を制しながら、鬼太郎は辺りを見渡した。
此処は雲と星しか見えない上空。
妖怪らしき姿はないが、吸血木から離れても尚感じる妖気が決定打だった。
吸血木の傍を飛んでいた時はその妖気に紛れて気付かなかった。
離れた今だからこそわかる。
「近くに妖怪がいる…ッ」
「へ?」
「なんて?」
髪が逆立つ程ではない。それでも感じる妖気に肌は荒立つ。
鬼太郎の言葉にやんやと騒いでいた鼠男と一反木綿も声を止めた。
「蛍さんしっかり! 僕を見ろ!!」
「っ!?」
ぐいと蛍の顔を両手で掴むと己へと向けさせる。
耳を押さえていた手も引き離して、そこへ呼びかけた。
「それは本物の"音"じゃないッ僕の声が本物の"音"だ!!」