第30章 石に花咲く鬼と鬼
さわりと頸を撫でていく。
葉のように薄いそれは、しかし葉ではなかった。
透き通る程に薄い何かが蛍の頸に触れている。
ひらひらと風になびくそれは紅葉の葉にも似ていた。
しかし紅葉ではない。
鮮やかな紅葉の色をしていなければ青々しい若葉色でもない。
それは人の手の形をしていた。
薄っぺらな人の手を成したものが、さわさわと肌をなぞっていたのだ。
まるで生い茂る吸血木の葉のように、幾重も重なり合いながら。
「ひ…っ」
目の前にぶら下がるような夥しい手の数に、ひゅくりと蛍の喉が震えた。
ぎゅっと反射的に鬼太郎の肩を強く掴む手に、異変を感じた隻眼が振り返る。
「! それは──…」
半透明なおびただしい手の群。
それがなんなのか。鬼太郎が知り得ているものなのか。
蛍が理解する前に、肌をなぞっていた手が不意に動きを変えた。
薄いその手のどこに力があるのか。纏わり付くように蛍の細い頸に回るとぐっと握り締めてきたのだ。
「ぐ、ぅっ」
「ッ一反木綿! 上へ回避しろ!!」
「が、ガッテン承知!!」
咄嗟に蛍の肩を掴み、空いた手で頸に纏わり付く手を引き千切るように離す。
同時に鋭く飛ぶ鬼太郎の指示に、慌てた一反木綿が体を反り上げた。
草木を突き抜け上空へと飛び上がる。
同時に肌をなぞっていた不快感は蛍から消え去った。
「げほ…ッ」
「大丈夫ですかっ」
「う、ん…一瞬だったから…」
「おわっ!? なんだァお前ら急に…!」
「気を付けろ鼠男。真下にいる」
「へ?」
上空では状況を把握できていない鼠男が目を白黒させて出迎えた。
一体何事かと真下を見下ろして、勘の良い頭は即座に悪い結論を弾き出す。
「いるってまさか…っ出たのか!?」
「正体はわからない。ただ蛍さんを襲ったのは確かだ」
「蛍ちゃん大丈夫と…っ? おいどんがすぐ気付かんかったけん…!」
「ううん、大丈夫。致命傷にもなってないし。それよりあれは…?」
「僕も見たのは一瞬だから定かではありませんが…もしかしたら──」