第30章 石に花咲く鬼と鬼
視界を覆う赤い葉の群。
町を飲み込むようなその景色は近くで見ても異様だった。
(なんでこんなに木々が生えていたことに気付けなかったんだろう…)
吸血木の存在を知ってようやく異様な景色だと悟れたのかもしれない。
赤黒い木々はそれを除けば静かに佇む普通の木だ。
「鬼太郎くん、妖気みたいなものは感じるの?」
「それが、吸血木の妖気が邪魔をして…」
蛍には感じ取れない妖気というものが妖怪にはあるらしい。
しかしそれを過敏に感じ取る鬼太郎の感知能力も、こうも生い茂る吸血木の群の中では機能しないようだった。
だとしたら目視に頼るしかないのか。
薄暗い林の中をゆっくりと進む一反木綿に、蛍は夜の町並みを目を凝らし見つめた。
耳を澄ませれば、ざわりと葉が揺れる音だけが届く。
さわさわと一枚の葉の揺れは微かな振動だが、こうも多くの葉が重なり合えばまるでそれは騒めきのようだった。
ざわざわと揺れる葉はすぐ下を飛ぶ一反木綿に、背に乗った蛍の耳も刺激する。
時折頭を掠め、頸を撫で、肌に触れていく。
触れても害はない。ただそこに佇むだけの木々に、それでも捜索に集中する蛍には邪魔なものだった。
ざわざわと葉が呻る。
その度に肌を掠める葉を手で払えど、すぐに別の葉が触れるのだ。
ざわりざわりと葉を揺らして。
「っ…一反木綿、もう少し低く飛べる?」
「なして?」
「吸血木の葉っぱが邪魔で…」
「よしきた蛍ちゃんの頼みばいっ」
鬱陶しく手で葉を払いながら蛍が頼めば、一つ返事で一反木綿が高度を下げる。
空を埋め尽くすように広げる枝や葉から離れれば、先程よりもぐっと町は見やすくなった。
それでも肌を撫でる葉は途切れない。
(また、)
一枚一枚は然程気にする程ではない。
しかしこうも何枚も葉が触れれば鬱陶しくも感じる。
さわりと首筋を撫でる葉。
片手でそれを払いながら、眉間に皺を寄せて蛍は振り返った。
こんなにも邪魔になるなら、多少見え辛くとも鼠男と同じ空から捜索した方がいいのかもしれない。
「鬼太郎く──」
そう提案でもしようとした。