第30章 石に花咲く鬼と鬼
ぽつんぽつんと町を彩る灯りは少なく、それだけ人気の少なさを物語っているようだ。
覆い被さるように赤黒い葉が生い茂り、僅かなその灯りでさえも消し去ろうとしている。
魔の手は静かに、しかし着実に町をじわじわと覆い尽くそうとしていた。
「妖怪は…人間を餌にしたりする訳じゃないんだよね…?」
「餌?…まぁ、妖怪にもよると思いますが。少なくとも吸血木の養分は人間の血液です」
「でも吸血木自体は人間を自ら襲ったりしないんでしょ?」
「はい」
「だったらなんでこんなこと…」
「理由を探す前に原因を捜せってんだ。そんなこと逐一考えたって犯人は見つからねェぞ」
「鼠男」
「あんだよ。本当のことだろ?」
鼠男を冷ややかに窘める鬼太郎だが、彼の言い分は尤もだ。
そもそも蛍のよく知らない妖怪のことなど、理解の追い付けないものがほとんど。
逐一考えていても答えは簡単に見つけられるはずはない。
「大体空から捜したって目ぼしいモンが見つかるかよ。吸血木の所為でほとんど町も見えねェじゃねぇか」
(確かに…木々が視界の邪魔をしてる)
元々少ない人影だって容易に見つけられないのは、その木々の所為だ。
「…一反木綿、低く飛べるか」
「ガッテン承知!」
鬼太郎の指示により一反木綿が更に滑空する。
するすると硬度を下げた飛ぶ木綿は、生い茂る葉の下を潜るように潜り込んだ。
「ってオレ様は!? 置いてけぼりかよ…!」
「鴉はここまで入ってこられない。鼠男は空からの捜索を頼む!」
喚く鼠男の飛行手段は鴉の群。
流石にその数でまとめて木々の下に潜り込むことは不可能だ。
鬼太郎の言い分も尤もだと理解しているのか、空から降ってきていた愚痴がやがて小さくなった。
「大丈夫かな、鼠さん一人にして…」
「あいつは転んでもただじゃ起きない。放っておいても平気です」
「にしても吸血木にも色んな形があるとねぇ…本物の森ん中飛んでる気分になるとばい…」
ひらひらと木綿の尾を揺らしながら一反木綿が静かに葉の下を潜るように飛ぶ。
空から見れば林のようだった木々の集まりも、潜り込んでみれば鬱蒼と視界を遮る。
一反木綿の言葉通り、それは薄暗い森の中を飛んでいるような気分だった。