第30章 石に花咲く鬼と鬼
「凄いね、一反木綿は」
「そげんこつなか。おいどん達は妖怪ばい。身形も人型から獣型からおいどんみたいな木綿型までおるとよ。見た目に拘ってるんは人間くらいやなかね」
思わず感心が口をついて出れば、当然のように頸を振られた。
外見が生き物のそれとはあまりにかけ離れている一反木綿だからこそ力を生む言葉に、蛍は口を噤んだ。
確かにそうだ。
蛍の世界で言う鬼にも様々な姿形をした者がいたが、そこに拘りは見せても醜さを主張する者などいなかった。
それが化け物のようだと、醜いものだと揃えて口にするのはいつも──
(人間、だ)
杏寿郎や蜜璃のような日本人があまり持たない髪色一つさえも、目の色を変える人間がいるのだ。
鬼は確かに人間を喰らう悪しきものだ。
しかし世の理から外れたものにも偏見なく見る目を持つのは人間よりも鬼なのかもしれない。
今目の前にいる妖怪と呼ばれる彼らもまた。
「話はそれくらいにして、捜索に戻るぞ一反木綿」
「よしきた任せんしゃい! 鬼太郎さん!」
蛍の沈黙で会話が途切れた中に、するりと抑揚のない鬼太郎の忠告が滑り込む。
はっとした一反木綿が優雅な空中遊泳から滑空へと変わる。
冷たい夜風が頬に当たり、目を覚ます感覚に蛍もいけないと奮い立った。
それでも人間に脅威を向けているのは悪鬼も妖怪も変わらない。
一刻も早く見つけ出さなければ、あの蕎麦屋の店主の命も失くしてしまう。
「…こうして遠目に見れば、鬼太郎くんの言ってたことが本当だったってよくわかる」
村に森を生む。
そう鬼太郎が告げた言葉通りに、見下ろす村には赤い葉が幾つも折り重なり、一部では最早林のようだ。
今はまだ辛うじて見えている町並みも、いずれは赤い木々に覆い隠され森となってしまうのだろう。
目視して実感する危機感に蛍も目を凝らし町並みをつぶさに観察した。
鬼の眼は夜目が利く。
それを利用しても、怪しげなものは見当たらない。
そもそも人がいないのだ。
閑散とした夜の町は静まり返り、その広さ故に物寂しく感じる。
それはひやりと肌が寒くなるような不気味な静けさだった。