第30章 石に花咲く鬼と鬼
確かに、と内心頷くと蛍は恐る恐ると両手を伸ばした。
一反木綿には跨るような形で座っている。
前に乗る鬼太郎の両肩にちょんと手を乗せれば、一度だけ視線を向けた鬼太郎が流れるように前を向き直った。
「これでいいかな…鬼太郎、くん」
「別に取ってつけたように呼ばなくていいですよ。鬼太郎で」
「それならそっちも私より年上だろうし…無理して敬語なんてつけなくていいよ」
目玉親父は百年前の話を平然としていた。
となれば鬼太郎も見た目にはそぐわぬ年齢のはずだ。
信じ難い話だが、鬼である自分も人間と同じ老化は訪れないからこそ納得できる。
促してみれば沈黙を返された。
それは肯定の意味だろうか、否定の意味だろうか。
相手は小柄な少年の姿をしているというのに下手に呼びかけられない空気感があった。
「いや空気重ッ」
否、そこに易々と呆れ顔で突っ込む鼠が一人。
「なんだお前ら、童貞処女の見合い前かよ。見てるこっちが参るわ」
「ど…ッしょ…例えが雑!」
「そうかァ?」
「うるさい、鼠男」
「煩くもなるだろーよ、なんでオレだけ鴉移動なんだよッ」
一反木綿に乗り空中浮遊をする鬼太郎と蛍。その隣にも同じく空中浮遊に興じる鼠男の姿があった。
突然の突っ込みに狼狽える蛍とは反対に、冷静な鬼太郎は呆れ顔だ。
大量の鴉の足に括り付けられた紐は薄い木の板に続いている。そんなブランコのようなものに座り運ばれている鼠男は、優美な空の散歩とは言い難い。
なんとも奇妙な光景だ。
「一反木綿が乗せるのを嫌がったんだ。自業自得だろ」
「文句ばーっか言う鼠男は乗せる気なか!」
「ぐぬ…っこの腐れ木綿め…!」
「というか…この鴉達も鬼太郎…くんの仲間なの?」
「…はい、まぁ」
「ふぅん…」
同じ鴉の使いを友として傍らに置く鬼殺隊を知っているからこそ、同じに鬼太郎達に協力している鴉には興味が湧く。
あの鴉達も鎹鴉のように人語を喋れるのだろうか。
興味津々に見つめていた蛍の目がはっとすると、隣で背を丸めてぶつぶつと愚痴る鼠男を捉えた。
「そうだ鼠さんっ」
「あ? ンだよ」
「訊きたいことがあって」
「訊きたいことォ?」