第30章 石に花咲く鬼と鬼
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バサリと力強い羽撃きが夜空に木霊する。
幾重も重なるその羽音は鎹鴉によるものではない。
しかしそれと同じ漆黒の羽を持つ鳥達が頭上で固まり飛んでいく。
近距離で飛んでいるというのに、ぶつかることなく器用に並び飛ぶ様には見入った。
しかしそれより驚くべきものが自分の尻の下にある。
「蛍ちゃん、乗り心地はどげんね。おいどんは力持ちやろ?」
「う、うん…すごい…」
ひらひらと長い木綿の先端を揺らしながら夜空を飛ぶ一反木綿。
その薄い背に乗っているというのに不安定さはなく、地上へ落ちもしない。
薄っぺらな体のどこにそんな力があるのかと疑う程、薄い木綿は優雅に飛んでみせた。
「そうやろ~凄いやろ~もっと褒めてもいいばってん!」
薄い木綿に目らしきものが二つ付いているだけの表情乏しいものなのに、一反木綿の感情は手に取るようにわかった。
それよりも目の前に座っている鬼太郎の方が余程感情は読めない。
「やけど蛍ちゃん、体が硬かねぇ。高い所は苦手やったりすると?」
「そんなことは、ない…けど…」
「そんなに離れていたら落ちます。掴まっていてください」
「ぅ…」
高い所が怖い訳ではないのだ。
それならば童磨との激戦を繰り広げた場所の方が遥か空の高みだった。
二手に分かれて捜索を始めた一行。
蛍が臆しているのは、空からの探索をと一反木綿の背中に乗せられた為だった。
振り返った鬼太郎に忠告されて、恐る恐ると薄い木綿に両手を置く。
そんなぎこちない蛍の動作に瞼を半分程落として溜息をつくと、鬼太郎はその手を取った。
「あ」
「そこじゃなくて僕に掴まっていてください。そんな乗り方をしていたら本当に落ちる」
「ぇ…いい、の?」
「? 何が」
「いや…触られたりするの、嫌かなって…」
蛍の言葉が予想外のものだったのか。きょとんと瞬いた隻眼が、まじまじと蛍を見た。
「嫌だなんて言いましたか?」
「言ってないけど、人に干渉されるのは嫌かなぁって…私、人間じゃないけど」
「干渉も何も必要なことだから言っているだけです。ここで落下事故でも起こされた方が余程後味が悪い」
淡々と告げる鬼太郎の言い分は尤もだ。