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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第30章 石に花咲く鬼と鬼



 口元に笑みは浮かべているが目は笑っていない。
 そんな杏寿郎に物申す気にもなれず、蛍は脱力気味に肩を落とす他なかった。

 男は男でも相手は空飛ぶ手拭いだ。
 気を引き締めるも何も、何かが起こる方が可笑しな話。


「(とりあえず、まぁ…)朔、」


 脱力した肩はそのままに、呼べばとぷんと蛍の足元の影から小さな黒い金魚が泳ぎ上がる。


「地上を捜索するなら、朔を連れていって。何か役に立つかもしれないし」

「蛍の傍におかなくていいのか?」

「私は大丈夫。地上より空の方が危険との遭遇率も少ない気はするし…一番見ておくべきは巽さんだと思うから」

「ふむ、確かに。では朔ノ夜は君との懸け橋に使わせてもらおう」

「うん」

「ほう。蛍ちゃんの術は生き物の形をしておるのか。面白いのう」


 ゆらりと長い尾を揺らして杏寿郎の肩の上で留まるように浮く。
 そんな朔ノ夜を興味津々に杏寿郎の頭部の上から目玉親父が覗き込んだ。


「ではひとまず一通り町を捜索してから合流ということで。いいですか、父さん」

「うむ! 鬼太郎、蛍ちゃんを任せたぞ」

「…わかりました」

「蛍ちゃん? 蛍ちゃんって呼んだばい親父さん! やっぱり女せ」

「あーあーうるせーなァ! さっさと乗り物になれよお前はよォ!」

「おいどんは乗り物じゃなか! 鬼太郎さんの右腕たい!!」

「へぇー薄っぺらい腕だこと!」

「ムキィー! そげんこつ言うなら鼠男はもう乗せん! 鴉にでも頼みんしゃい!!」


「鼠男! 一反木綿も! 全く…!」


 布地が赤くなる程憤慨する一反木綿を、突き出した尻を叩いて煽る鼠男。
 どうやら仲は良くないらしく、よくある光景なのか鬼太郎も半ば呆れ顔だ。

 そんな人間など一人もいない異種族の仲で一人。


(…前途多難だ…)


 蛍は笑わない笑顔の杏寿郎を前にした時以上に、ぐったりと肩を落としたのだった。

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