第30章 石に花咲く鬼と鬼
とても目玉親父が言う優しい性格のようには見えない。しかし鼠男が貶す程、冷たい者にも思えない。
(そもそも最初に歩み寄ってきたのはあっちからだし…)
巽に微弱な吸血木の名残りを感じたからだろうが、それでも関わりなく遠くから見守ることもできた。
それをわざわざ問いかけに来るということは、それだけの思いがあったからだ。
「にしてもよォ、お前。蛍、だっけか?」
「あ、うん。…どうも、鼠さん」
「鼠さんて。変な呼び名付けんなよ」
「鼠男って言うのもなんだかなって。よろしく鼠さん」
「挨拶するには距離が遠くねぇか…?」
「そんなことは鼠さん」
「そんなことはって顔じゃねェなソレ!」
にっこり笑って頸を振るも、一定以上は近付こうとしない。
なんせドブのような臭いが鼠男からはするのだ。
近くにいては鼻がひん曲がってしまう。
「ハァ。お前、本当に女なのかよ? どっからどう見ても野郎にしか見えねぇが…いい加減術解いたらどうだ?」
「これは」
「それはならないッ!!」
再度頸を横に振ろうとした蛍より早く、笑顔で声を張り上げたのは杏寿郎だ。
その勢いに肩に乗っていた目玉親父がころんと足を滑らせる程。
「む! 大丈夫か親父殿!」
「お、お主のその声量は慣れんのう…ッ驚いてしまったわい」
「ならば頭に乗っていてはどうだ? ここなら滑ることもないだろう!」
「おお、確かに! 鬼太郎と違って麦畑のような頭じゃのうっ」
ふわふわと癖毛の強い杏寿郎の頭なら、滑り落ちることもそうあるまいと移動させられた目玉親父がぴょこんと跳ねる。
なんともその奇妙な様に一同が神妙な表情を浮かべる中、再び杏寿郎の口がくわりと吠えた。
「して蛍!」
「うわっハイ」
「その姿は切り裂き魔を欺く為のもの。その脅威を排除できない限りはその姿のままでいるように!」
「御意」
「地上だろうと空の上だろうと、俺が良しとするまで決して!擬態を解くことなきよう!!」
「ぎ…御意」
笑顔でいるが、なんとも圧のある笑顔だ。
しゃんと背筋を伸ばしつつ気圧される蛍の背後で、鼠男はぴくりと髭を一本震わせた。
「へーへー、さいですか」
なんとも面倒臭そうな人間だと。