第30章 石に花咲く鬼と鬼
「くじ運がないと言うが、蛍ちゃんや。鬼太郎の傍にいた方が余程安全じゃぞ」
「そ…そうなん、ですか…?」
「うむ! 儂の自慢の息子じゃ。今までにも人々に悪さをしてきた妖怪を何匹も倒してきた!」
「人に悪さをしてきた…」
話しかけられると少しの抵抗はあるものの、出会い頭のようにあからさまに怖がることはなくなった。
そんな蛍は耳にした目玉親父の言葉を復唱しながら、ふと頸を傾げた。
「幽霊族って、妖怪じゃなくても近しい存在なんですよね?…ならなんで妖怪側じゃなくて人間側についてるんですか?」
「人間側についてなんかいない」
素朴なその疑問に真っ先に反応を見せたのは鬼太郎だった。
今まで丁寧な敬語を使っていたというのに、蛍の問いに応える声には素っ気なさが宿る。
一瞬の沈黙。
はっとしたように顔を上げた鬼太郎は蛍と視線を合わせるものの、すぐに流れるように顔を背けた。
「妖怪であれ人間であれ、悪さをする者は放っておけない。それだけです」
「…そう、なんだ」
煮え切らない空気になってしまったが、言い切る鬼太郎にそれ以上の質問はぶつけられなかった。
「…父さん。僕達は空から捜すことにします。視野は広げておいた方がいい」
「うむ」
「準備をするから待っていてください」
「ぁ…うん」
「鼠男は逃げるなよ」
「ハイハイ、わぁったよ」
蛍に再び敬語を向けるようになったが、どことなく距離感を感じる。
しかし鬼太郎という少年を最初から見ても、ひんやりと背筋が冷たくなるような微弱な怖さはあった。
寧ろ目玉一つという異様な風貌をしている彼の父の方が親しみやすい空気を持っている。
「蛍ちゃん、余り気にせんでおくれ。鬼太郎は昔からああいう性格でのう。人間と妖怪は必要以上に交わってはいけない。妖怪は怖がられるぐらいが丁度いいと考えておるんじゃ」
「それ、私達が関わっても…?」
「今回は仕方ない。巽君のことも放っておけんしの。まぁ鬼太郎は儂やそこの鼠男より積極的に人間と関わりたがらないだけじゃから。根は優しい子じゃ」
「あの鬼太郎が優しい? ケッ何言ってんだか…」
腐れ縁の鼠男は一言物申したい様子だったが、蛍は別の感情を有していた。