第30章 石に花咲く鬼と鬼
「…悪妖怪…」
「む? 変なことを言ったか? ならば失礼!」
「いや…妖怪の中に悪とそうでないものとを見定める人間など今までおらんかったからのう…」
さり気ない杏寿郎の発言に無い瞼を瞬くように、目玉親父が呆けた声を零す。
何か思うところがあるのか。途端にしゃんと背筋を伸ばすと、腰に両手を当てて大きく頷いた。
「うむ! ならば儂からもぜひ協力をお願いしたい! 出会い頭の身のこなしといい頼りになる者達じゃろう!」
「妖怪退治など初だが力添えできるよう尽力しよう!」
「ょ…妖怪退治…!?」
意気投合するかのような目玉親父と杏寿郎の威勢に、気圧されながらも聞き捨てならない名称に蛍の顔が青くなる。
「ではどうするんですか? 父さん」
「そうじゃな。吸血木の種を散布した者は必ずこの町に潜伏しておるはずじゃ。人手も増えたことじゃし、二手に分かれて東西から捜してみるのはどうじゃろう」
「成程! 原始的且つ簡易的方法だ!」
「へぇ~…そりゃご苦労なこって。じゃあオレはこれで」
「待て鼠男」
鼻を小指でほじりながら興味なく背を向けた細い肩を、がしりと掴んだのは子供の手。
子供成らざる力で掴んだまま、ぬっと下から見上げる鬼太郎の隻眼が圧を放つ。
見開いた瞳孔は感情が読めない程小さく、幼い顔立ちながら無表情であるが故に背筋を冷たくさせる。
「この町へ来たからにはお前にも手伝ってもらう。言い逃れは無しだ」
「ひえ…勘弁しろよ…!」
有無言わさない強制参加に、鼠男もまた蛍と等しく顔を青褪め喉をきゅっと細めたのだった。