第30章 石に花咲く鬼と鬼
「だったらなんで吸血木の種が町に散布なんか…」
「ううむ…もしや…あれが関係しておるのか…」
「あれ、とは?」
言い淀む目玉親父に反応したのは鬼太郎ではなかった。
麺を茹でる為の湯は、ぼこぼこと湯気を立て沸騰し続けている。
つい先程まで此処に店主はいたのだ。
懸命に働き続けていた男の命を奪おうとしている悪の芽に、振り返る杏寿郎の表情に笑顔はなかった。
「心当たりがあるのなら、何がこの町の人々を襲っているのか教えて頂きたい」
「しかし…切り裂き魔とは違うものじゃぞ。人でもお主らの言う鬼でもない」
「だからなんだ」
射貫くような視線が突き刺さる。
先程、蛍のことを語った時と似て非なるその双眸に再び目玉親父は言葉を止めた。
しかし言葉を飲み込むのではなく、諦めの溜息をついて小さな体で鬼太郎の肩に移動する。
ぴょこんっと身軽な動作で店内の机に飛び移ると、座り込むような歪な形で生えている吸血木に近付いた。
「父さん」
「大丈夫じゃ。吸血木は一度人に寄生すれば他の者には手を出さん。ただ宿主の命を吸い尽くすまで離れることはないが…」
肌色の小さな鼠のような手が、そっと赤黒い大木に触れる。
「可能性があるとするならば…恐らく別の妖怪じゃな」
「え。」
「まだ他にいるのか?」
目玉親父の指摘にすぐさま反応を示したのは、青褪めた蛍。
続く巽もこれ以上は満腹だと言いたげな顔で肩を落とす。
「吸血木自体は、寄生するまではただの植物の種と変わらないんじゃ。自ら人間を襲いに行ったりなどしない」
「では、それを強制させている者がいると」
「うむ。叩くならその妖怪じゃ」
「成程。…悪鬼ならぬ悪妖怪という訳か」
腰に帯刀した刀に片手を添えて呟く。
声に闊達さはないものの、静かならが圧を持つ杏寿郎の声には皆が目を止めた。
「無関係な一般市民を襲うなど言語道断。その悪妖怪捜し、我らも付き合うとしよう」
「え、炎柱?」
「え…妖怪捜すの…?」
「そうだ!」
巽と蛍の理由こそ異なるが、反応はどちらも似通っていた。
まさか、という二人の呼びかけに即答する杏寿郎に迷いはない。