第30章 石に花咲く鬼と鬼
「なんだァ? 人間じゃねぇが妖怪とも違う気配がしやがる…鬼太郎、なんだアイツ」
「お前には関係ない。それより本当に何も関係してないのか」
「してないって言ってんでしょーよ! 大体関係してたらわざわざお前の前に姿を現すと思うか? このオレ様が」
「……現れないな」
「よくわかってらっしゃる」
鼠男(ねずみおとこ)。その本名は誰も知らない。
妖怪と人間の間に生まれた存在であり、常に一匹狼で行動することを望む。
しかし何かと鬼太郎とは腐れ縁で今までつかず離れず生きてきた。
だからこそ鬼太郎も鼠男の性格はよく知っていた。
金の話に目がなく、あざといこの男のこと。わざわざ自分が窮地に追いやられるような行動はしないだろう。
「それよかなんだ、吸血木って。懐かしい名前だな…また何か騒動でも起きてんのか」
「見てわからんか。もう被害が出ておる」
「あー…道理で…」
鬼太郎の手が離れた胸元を片手で慣らしながら、辺りを見渡した鼠男が肩を落とす。
「だから何処も人は手薄なのかよ…折角評判の蕎麦が食えると思ったのによォ」
「蕎麦?」
そこに反応を示したのは杏寿郎だった。
この町で評判の蕎麦屋と言えば一軒しか思いつかない。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか。鼠に扮した貴殿」
「鼠に扮したって。ややこしい呼び方だな…腹がくすぐってェ。オレ様はビビビの鼠男よ。敬称なんて要らねェわな」
「ふむ。では鼠男殿。俺は煉獄杏寿郎という者だ」
「あーハイハイ。野郎の名前なんて別に興味な」
「その蕎麦屋とは何処の蕎麦屋なんだ!?」
「近っ近ェよ…!」
興味なくひらひらと片手を振る鼠男に、しかし杏寿郎は違った。
ずずいと顔を近付けると強烈な臭いを纏う鼠男に顔を顰めることもなく、鼻先が触れそうな距離で止まる。
「教えてくれないか!!」
「わぁったわぁった! 蕎麦屋は蕎麦屋だよッこの道を真っ直ぐ行って町の繁華街に向かう道の途中にある!」
「! それってまさか…あの蕎麦屋?」
「どう聞いたってそうだろ。何があったんだ?」
「おお? なんだ急にわらわらと」
今し方世話になったばかりの蕎麦屋のことだ。
蛍と巽も何かあったのかと迫るように鼠男へと足を向けた。