第30章 石に花咲く鬼と鬼
「お前がまた吸血木の種をばら撒いたんだろう…!」
「吸血木ィ?…ああ!」
一瞬なんのことかと顔を顰めたものの、思い当たる節はあるのか。ぴんと鼻の下の髭を伸ばして反応する鼠男に、胸倉を掴む鬼太郎の手に力が入る。
「って違う違うオレじゃねェよ! 今回はな!!」
「ふむ。どうやらその男が手掛かりらしいな」
「あ?…って誰だよあの人間達は」
「お前が撒いた種に巻き込まれておる者達じゃ。さっさと持っている残りの種を出さんか!」
「だからオレじゃねぇって!」
ぎゃあぎゃあと騒がしく喚くも、一向に罪を認める気はない。
どことなくその物腰や喋り方から胡散臭い空気を纏っているが、鬼太郎達と顔見知りなところは仲間内か。
一歩踏み出した杏寿郎が、口元に笑みを浮かべて近付いた。
「親父殿! その男は? 今回の事件に関与している者か」
「だと思ったんじゃが…以前の吸血木騒動の時は、この鼠男が種を無暗にばら撒いたからのう」
「だーかーら! オレは今回は潔白だっつってんだろ!? 大体此処へ来たのも、お前らが妙に騒いでるから金目の話でもあるかと…」
「金目?」
「ハハハ! なんでもない。イヤナンデモ」
じろりと隻眼で睨み上げる鬼太郎のその実力を知っているのか。下手に抵抗することなく、取り繕うように笑うと鼠男は降参とばかりに両手を上げた。
胡散臭いことは変わりないが、どうやら今回の主犯ではないようだ。
「以前…ってことはその人…じゃない、その男性も…幽霊族の仲間、とか…」
それよりも蛍の気がかりは別にある。
目玉親父が話した過去の吸血木事件は、人間であれば遥か昔のこと。
そんな時代から生きていたということは、この一見みずぼらしい男も人間ならざる存在なのか。
「幽霊族? オレはそんな類の妖怪じゃねェよ」
「! 妖怪って言った…!」
「って言ってもオレは妖怪と人間の混じり合わせだからな。半端モンにそんな大層な肩書きは……って誰だアイツ」
常人離れした杏寿郎の姿には止めなかった鼠男の視線が、恐々と顔を向けてくる蛍には止まる。
すんすんと鼠のように小鼻を鳴らし、痙攣するように髭の先がぴくぴくと揺れた。
「ありゃ人間じゃねェな」