第30章 石に花咲く鬼と鬼
「思った以上に深刻な問題だな…親父殿。その昔に吸血木に寄生された人々は、結果どうなったんだ?」
「…ああ…儂らが見つけ出した時には既に手遅れじゃった…吸血木諸共火葬して二度と根を張らせないようにしたんじゃ」
「そんな…」
吸血木に寄生されることは、即ち死。
とあらば今目の前に広がっている木々に変貌してしまった人々もまた、その命は救えないのか。
愕然と周りを見渡す蛍に、杏寿郎も初めて眉間に深い皺を刻んだ。
「元々は人間と触れ合うような場所にはいないはずじゃ…なのに何故また…」
「前回、人里を襲った原因は? それと同等の理由ではないのか」
「あの時は、ねず──」
「シケた町だなァ…ったく」
杏寿郎の尤もな問いに鬼太郎が口を開いた。
そこに被さるような大きな溜息が届く。
「どこもかしこも人手不足に食料不足。評判の店が並んでるってのにまともな飯も食えやしねェ」
ひょろりと細長い背を曲げて、長い前歯の覗く口元をぽりぽりと指先で掻く。
その指の先の爪も歪に曲がった、薄汚い男が一人。
纏うものは灰色の布切れ一枚。現れたその風貌より、男が持つ臭いに蛍と巽は顔を顰めた。
(く…臭い…!)
まるで下水道の中に飛び込み数ヶ月遊泳していたかのような、強烈な臭いを纏っている。
思わず鼻と口を押えた手を自らの手で叩き落す。
反射的な行動だったが、初対面の男に失礼だと咄嗟に蛍ができた懸命な判断だった。
「お前…っ鼠男!」
「ん? おッ鬼太郎ちゃん! なんだァ、お前らも来てたのかよっ」
「なんだ、じゃないだろうッシラをきるな!」
「へ? なんの話よ」
鬼太郎はその男を鼠男と呼んだ。
確かに言われて見れば、長い前歯に動物の持つそれに似た細い髭が鼻の下に生えている。
両目は丸く、手足はがりがりに細い。
極めつけは灰色の汚れた布服が、男の名称を模しているかのようだ。
あんなにも淡々とした態度を一貫していた鬼太郎が、鼠男を前にした途端に変わった。
一目散に駆け寄りその胸倉に掴みかかる。
ひょろりとした細身な鼠男の為、鬼太郎の手であっても簡単に揺さぶられた。