第30章 石に花咲く鬼と鬼
ざぁ、と冷たい風に葉が呻る。
「村に森を生む、って…」
「言葉の通り。村が森を生むんです」
はたはたと揺れる黄色と黒のちゃんちゃんこ。
夜風に舞った葉が一枚、鬼太郎の頭上を通り抜ける。
ぱしりと常人の目では追い付けない速さで掴み取ったそれを、鬼太郎は三人の前に翳した。
「吸血木に寄生された人間は、その姿を木へと変貌させます。養分は人の血液。故に幹も葉も真っ赤な色に染まる」
翳されたなんの変哲もない一枚の葉。
ただ一つ、見慣れた木々の葉と違うのは紅葉のように真っ赤に染まっていることだ。
しかしその葉は紅葉ではない。
鬼太郎の指摘に息を吞んだ蛍は、はっと顔を上げた。
「森を…」
何故気付かなかったのか。
町として栄えたであろうこの土地の至る所に生えている、その木の姿を。
駅の横にも。繁華街の道にも。街灯の隣にも。
まるで最初からそこに植え付けられているかのように、木々はひっそりと生えていた。
闇に紛れるように、赤黒い幹を葉を携えて。
夜風が町を吹き抜ける。
ざわざわと葉を揺らし呻る様は、まるで人のざわめきの如く。
しかしそれは人の声ではない。
まるで林の中に踏み込んだような木々の呻りに、蛍は鬼太郎の口にした言葉の意味を悟った。
森を生む。
人々の気配を消し、生い茂るような赤い葉を広げ、正に町が森へと変わろうとしている。
「じ…じゃあ、あれも…それも、元は全部…?」
「人間じゃった。故にこの町で消息を絶つ者が増えておるんじゃ」
言葉で聞くのと、実際に目にするのとは違う。
最初は疑惑しかなかった巽も、町のあちこちに佇む赤黒い木々を見て目の色を変えた。
ひっそりと闇に同化する禍々しい赤い木は、遠目に見ればまるで天へと手を伸ばす人の姿のようにも見える。
ただの木でないことは、鬼殺隊であるからこそその肌で感じることができた。