第30章 石に花咲く鬼と鬼
「ではどうするべきと?」
「…問題はそれなんじゃが…」
「え、解決法ないの?」
「百年余り前にも同じように人里を襲ったことがあってのう…その時は……」
「ぉ…おいおい、変に言い淀むなよ。大体、寄生された人間はどんな姿になるんだ? それがわからないようじゃ助けようも…」
歯切れの悪い目玉親父に、蛍と巽の顔色も悪くなる。
人間に寄生して内部に取り込むという言葉だけでも恐怖だというのに、その解決策がないとなると。
「そもそもその話は本当なのか? 幽霊族なんて聞いたことないし、妖怪なんて話も信じ難い」
「巽さん…」
「だってそうだろ? 鬼はこの目で沢山見てきたけど、その中に妖怪だなんて言う鬼はいなかった。なのに急にそんな話で迫られたって」
妖怪などというものは、幼い頃に聞かされた御伽噺に出てくるような空想の産物だ。
それよりも悪鬼の方が余程巽には現実味のある生き物。
この目の前の説明のつかない目玉親父の存在もまた、その類ではないのかと疑ってしまう。
「こいつらが妖怪だって証拠はない。なら鬼である可能性だってあるはずだ」
「その親父殿と少年から悪鬼特有の気配はしない」
「で、ですが炎柱。それを言えば彩千代もそうでしょうっ?」
静かな杏寿郎の指摘に巽が声を荒げれば、ぴくりと反応を示した蛍が唇を結ぶ。
「悪鬼の気は持ってなくても鬼は鬼だ。この二人だって彩千代みたいな鬼の部類に入るんじゃ──」
「……」
「…っ」
ないですか。そう告げようとした巽の声は、無言で向けられる強い眼差しに怖気付いた。
睨むでもない、叱咤するでもない。それでもじっと見透かすように貫く視線に足が竦んでしまう。
先程まで浮かべていた笑みを消した杏寿郎の無言の表情は、こんなにも圧があるものなのか。
沈黙。
「…村に森を生む」
その重い静寂を打ち止めるように、ぽつりと零したのは事を見ていた鬼太郎だった。
「吸血鬼が食い散らかした人里は、そう後に人々の間で伝えられるようになりました」
ぽつり、ぽつりと。静かに語る鬼太郎の声は少年独特の声変わり前のあどけなさが残るものだ。
なのに抑揚もなく淡々と語る様は声に似合わず、その差異が妙に背筋を寒くさせた。