第30章 石に花咲く鬼と鬼
「…なんとも風変わりな者達じゃのう…」
「父さん…彼らは知っているでしょうか」
「吸血鬼とやらか!? 鬼太郎少年!」
ぽそぽそと会話する凸凹親子の声は杏寿郎の耳に届いていたようだ。
ぐりん、と振り返る杏寿郎に中途半端だった会話を繋げられ、鬼太郎は隻眼の目を丸くした。
「きゅうけつきです。吸血鬼じゃありません」
それでもぱちりと目を瞬いたのみで、驚きの声一つだって上げはしない。
見た目に沿わない年齢であることは確かなようだ。
「というと?」
「こちらへ」
からん、ころん。
下駄を鳴らし駅の外へと向かう鬼太郎に皆も続く。
剥き出しの土の地面に腰を屈めた鬼太郎が、がりがりと石で削り書いた文字を、上から三人で覗き込んだ。
「吸…」
「血」
「…木?」
そこに書かれていたのは【吸血木】の文字。
見慣れない単語だが、確かに読みは「きゅうけつき」だ。
「僕たちが捜しているきゅうけつきです。この町の人々を行方不明にしている現象の一つと見ています」
「えっそうなの? 切り裂き魔が原因じゃなくて?」
「恐らくそれもあるじゃろう。しかしそれだけでは痕跡の少なさや、消息を絶つ速さ、諸々辻褄が合わんこともある。儂らはこの吸血木の手がかりを追ってこの町に辿り着いたんじゃ」
「大体なんだ? その吸血木って」
「その名の通り、吸血植物のことじゃ。人間の住まう世界に普通は存在しないもんじゃが…何を誤ってか、こちら側に漏れてしまっておるようでのう。生物に寄生して体内に根を張り巡らせ、生血を養分として成長する植物じゃ。最終的には宿主を内部に取り込んでしまう、一種の捕食植物じゃな」
「ひえ…何それ怖い」
ぴょこんと鬼太郎の髪の中から顔を出した目玉親父の説明に、蛍は思わず口元に片手を当てて顔を顰めた。
一瞬、京都で初めて対峙した鬼の血鬼術を思い出したが、あれは花吐き病を発症させる為の種。
宿主を苗床にすることはあっても、内部に取り込むようなものではなかった。
「うーむ。そんな恐ろしい植物が存在していたとは。この町に寄生しているならば一刻も早く刈り取らねばならないな!」
「刈ってはならん。寄生されておるのはどれも人間じゃ。刈ればその者の命も断ち切ってしまう」