第30章 石に花咲く鬼と鬼
見た目には極々普通の男性だ。
しかし目玉親父を見てころころと変わる表情や、鬼太郎と対峙して見せたはっとする鋭い目つきには自然と目を惹いてしまう。
元は女だからだろうか。間近で見れば肌に影を落とす睫毛の長さや、ほんのりと薄く色付く唇が妙に際立って見えた。
いやらしさはない。
ただなんとなしに目が向いてしまう。
「…巽さん?」
「えっ!?」
恐々と目玉親父を見ていた蛍の視線が、途端にこちらを向く。
大袈裟なまでに過剰反応になってしまったことを悔やむも、巽は素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。
「な、なんだッ!?」
「いや……あ。」
「え?」
「もしかして巽さんも怖いんですか?」
「はっ?」
「なんだぁ、我慢してたなら言って下さいよ。私だけかと思っフむッ」
「な訳ないだろ、子供じゃあるまいし。一緒にするな」
「ふむむ…ッ」
同じに怖がりなどと思われては堪らない。
軽く笑う蛍の頬をむんずと片手で掴むと、巽はジト目で肩を下げた。
するとどうだ、ほんのりと色付いて見えた唇もただの間抜けなひょっとこ口にしか見えない。
男でも女でもどちらでも構わないが、巽には男の姿である方が都合がいいと思えた。
変に構えることなく向き合えるし、鬼であってもこうして遠慮なく手を出せる。
「大体鬼の癖して霊だのお化けだのが怖いってどういう──」
その手首に音もなく触れたのは分厚い掌。
はっとした巽が顔を上げれば、すぐ目の前に燃えるような金輪の双眸があった。
巽の手首をやんわりと握り、蛍の口から離させる。
一連の動作を無言で終えた杏寿郎が、深く口角を上げた口を開き一言。
「仲睦まじいな!!!!!」
ビリビリと耳の鼓膜まで震わせるその指摘に、巽は訳もわからず目を白黒させた。
「師範…この距離で告げる声量じゃないです…耳が痛い」
「む!? それはすまん!!」
同じにぺたりと両耳を押さえた蛍が小言を告げる。
それでも未だ有り余る声量に、くわんと揺れる頭を巽もまた片手で押さえた。