第30章 石に花咲く鬼と鬼
「吸血鬼? それは鬼の類なのか?」
「ああいや、違うんじゃ。それは──…お若いの、お主名前は?」
「ああ、名乗り遅れてすまない。俺は煉獄杏寿郎。鬼殺隊という組織に組する、悪鬼を滅する剣士を生業としている。彼女は継子…弟子の彩千代蛍。悪鬼と同じ存在だが、彼女は滅するに値する鬼ではない。我らの仲間だ。隣の巽青年は俺と同じ鬼殺隊の剣士。腕の立つ若者だ」
「ほう、鬼と人間が共存しておるとは。中々興味深いのう」
「そうですね…しかし彼女と呼ぶのに、何故その蛍さんは男の姿を?」
「わかるのか? 鬼太郎少年」
「普通の人間でないことは。一枚何か被っているような感じもしました」
「そ…っそれは俺も気になってましたっ彩千代は…その、男…なのですか? 炎柱…」
「蛍は男ではない、れっきとした女性だ」
ずっと疑問に思っていたことを恐る恐る問う巽に、杏寿郎は間髪入れず否定した。
その答えに改めて巽の目が半信半疑に隣の蛍へと向く。
同性の姿であることと心霊ものを怖がる姿につい砕けた態度でぶつかっていたが、やはりこれは女であり鬼なのか。
何度間近で見ても、触れても、硬い体に低い声は男のそれと変わらない。
「成程。精密な変化の術を持っておるんじゃのう」
「鬼にも擬態性能には個体差がある。蛍は特にその能力に秀でた者だ。故に今回の任務では男性の姿を借りてもらっているまで」
「擬態…噂には聞いていたけど…」
鬼は体を変幻自在に操れる生き物だと言う。
しかし性別まで変えた鬼を見たのは初めてだった。
こんなにも高性能な性別を分けた擬態を取れるのかと、巽の視線が興味を生む。
「でもなんで男性の姿なんかに?」
「…切り裂き魔の目を欺く為だと、師範が」
「欺く…ああ、」
切り裂き魔が甚振る趣味として選ぶ対象は、女性子供だ。
杏寿郎は蛍を切り裂き魔の餌にはしないと言っていた。故の擬態指示なのだろうと巽は納得がいったが、蛍はどこか不服そうな表情を残している。
(そんなに囮になりたかったのか?)
そんな疑問も一瞬湧いたが、それよりも疑問を膨らませたのは炎柱の指示だ。
そこまでして蛍を囮に使いたくなかったのか。