第30章 石に花咲く鬼と鬼
──────────
「幽霊族?…それは心霊的なものとは違うのか?」
「どちらかと言えば妖怪種族に近いのう。儂らはその末裔じゃ」
「ゆ…ゆうれい…ぞく…」
「…お前だって鬼だろ。俺からしたらどっちも同じようなもんだ」
「だって巽さん、幽霊ですよ? しかも妖怪って言った今!」
「わかったわかった、わかったから声を上げるな落ち着けっ」
駅に設置された長椅子に座る少年と、その掌に乗る小さな目玉の小人。
彼らは自身を幽霊族と名乗った。
ふぅむ。と興味深く己の顎に手をかけて考え込む杏寿郎は常備運転。
その後ろで青褪める蛍を肘で小突く巽の言い分は尤もだ。
「名乗り遅れましたが、僕は鬼太郎(きたろう)といいます。こちらは父の、」
「目玉親父(めだまおやじ)と呼んでくれ!」
「え、お父さん?」
「ふむ。粋な親父殿だな!」
「いや待って。目玉がお父さん?」
「父さんは一度体を全て失いましたが、僕の為にその目に命を移してくれたんです。だから今はこの姿をしています」
「え…じゃあその目って…」
「父さん自身の片目です」
「ひング!?」
「気持ちはわかる。でも叫ぶなッ」
身長は10cmもない小さな目玉の小人。それは元は自身の片目だったという。
これが叫ばずにいられようか。
やはり幽霊の類ではないかと巽に口を塞がれながら蛍は青い顔を戻すことなどできなかった。
「幽霊族…妖怪種族……ふむ」
ただ一人淡々と冷静な目で見据えていた杏寿郎が、不意に頷く。
「全ては理解し兼ねるが、概ねはわかった」
「え?」
「君達はこちら側の者ではない。故に我らの追っている鬼とは無関係のもの。そうだな?」
「ほう。お若いのは話が早くて助かる。確かに儂らは本来なら、お主達とは関りを持たん存在じゃ。しかしどうしても見過ごせん出来事があってな。この町に参った次第で」
「ほう。その出来事とは?」
「きゅうけつき」
頸を傾げる巽の耳に、更に聞き覚えのない単語が届く。
否、聞いたことならある。
鬼殺隊が滅する存在である悪鬼を、そう呼ぶ民間人もいる。
「きゅうけつきを知っていますか?」
しかし鬼太郎という少年が何度も尋ねるその名は、悪鬼とは違うもののように感じた。