第30章 石に花咲く鬼と鬼

　矢継ぎ早な杏寿郎と蛍のやり取りに、今度はぽかんと少年が佇む番だった。
　その頭に乗っている目玉の生き物も呆気に取られたように口を挟めないでいる。


「うーむ…どうしたものかのう…」

「あの人は…人間、ではないですよね？　人とは気配が違う」

「そうじゃのう」

「なのに僕たちのことにあんなに驚くものですか？」

「発言からして幽霊と勘違いしとるんじゃろう。…まぁ近しいものではあるが…」


「ほら！　聞いた！？　幽霊だって！　杏寿郎！！」

「近しい、と言っているな！　幽霊ではないようだ！！」


「…耳には届いているみたいですよ。僕たちの声」

「ううむ…ゴホン！」


　いつまでもこの調子では話が進まない。
　口もない眼球の下に小さな拳を当てて咳ばらいをすると、目玉の小人はぴょこんと小さな手を挙げた。


「そこの髪色が派手なお若いの！　君なら話を聞いてくれるじゃろうか！」

「む？…ああ、敵対する気がないなら話を聞こう！　鬼ではないようだな！」

「き、杏寿郎…」

「蛍は彼を解放してやってくれ。一人置いてけぼりにされているぞ」


　羽織の裾を握って離さない手にそっと掌を重ねると、杏寿郎の声色に優しさが増す。
　振り返った目線の先は、未だシャボン玉に囲われたままの巽。
　確かにそのままにはしておけないと、蛍は不安な顔色を残したまま小さく頷いた。


「すぐ戻ってくるから。祟られそうになったら逃げてね…ッ」

「そうだな、気を付けておこう」


　シャボン玉の浮かぶ駅外へと小走りに向かう蛍は、未だ少年達を悪霊とでも見ているのか。相変わらず心霊への苦手ぶりに苦笑しながら見送り、今一度少年と謎の目玉と向き合う。

　敵意は一切感じない。
　言葉でコミュニケーションを図ろうとするところ、悪鬼ではないようだ。
　一度頷き刀を鞘に戻すと、杏寿郎は口元に笑みを浮かべて一歩踏み出した。


「それでは聞かせてもらおうか。君達が何者であるかを」