第30章 石に花咲く鬼と鬼
「そ、それならあたしが悪いんですっあんぱんなんて投げつけて…ごめんなさいっ」
「いえ。いきなり意味のわからないことで迫られたら誰だって怖いものです。それも鬼なんて」
「そうだな。俺も不躾だった! 非礼を詫びる!」
「え…炎柱…」
慌てて頭を下げるふくに、更に負けじと深く頭を落とす杏寿郎。
いくら謝罪が必要とはいえ、炎柱ともあろうものが一般市民の少女に謝り過ぎではなかろうか。
そう生真面目な巽は止めたくもなったが、あまりの杏寿郎の潔さに言うに言い出せない。
それよりもあの隠こそ厚顔無恥ではなかろうか。柱の手首を叩いて制するなど。
そのことは一言注意せねばと巽は踏み出し損なった足に力を入れた。
「まぁまぁ。非礼なら私達もですよ。ここは駅弁売り場。お客様が欲しいと望むなら幾つだってお売りします」
そこへやんわりと声を挟んだトミの空気に、謝罪の波が止まる。
「さ、ふく。お弁当を包んで」
「はいっ」
「ありがたい! では二つだけ弁当は残して下さるだろうか。そこの少女とご婦人の分として!」
「ふふ。ありがとう御座います。ではこちらもその分と言ってはなんですがお飲み物を付けておきましょう。それで丸く治めてくれませんか?」
「こちらこそお気遣い感謝します」
「うむ!」
トミの提案により皆が納得の上での結果となった。
杏寿郎が買い占めた弁当は全部で六十個以上。
大風呂敷一つでは包み切れず、計五つの風呂敷ができあがってしまった。
「ぇぇ…」
二つの風呂敷は杏寿郎が持ち、更に大きな風呂敷は巽の背中に背負われ、尚且つ両手にも持つ羽目となる。
到底数人分では済まない量に、背負わされた巽の眉がへなりと下がる。
「あの…炎柱…」
「隊の皆に良い土産ができたな!」
別部隊としてこの夜の町を駆け巡っているであろう、隊士達への差し入れとして巽の抱えた弁当は配られる。
それならば確かに残飯と化すことは避けられるだろうが、目を見張るのは杏寿郎が両手に持つ風呂敷だ。
凡そ二十個程。その弁当は全て手にした男の胃袋へと入る予定なのか。
(蕎麦を食べたばかりなのに。炎柱の胃袋は鬼の胃より深いと噂だったが本当だったんだなぁ)