第30章 石に花咲く鬼と鬼
すらすらと説明を続ける杏寿郎に、成程と頷く。
元々杏寿郎の任務はお館様である耀哉に直々に命じられた無限列車だ。
その合間にもこうして隊士達だけでは解決できない任務も数多く受け持ってくれている。
全力で取り組もうとしてくれる姿勢には尊敬しか湧かない。
「俺は巽と言います。今回の切り裂き魔事件の任務に当たっている隊士の一人です。よろしくお願いしますっ」
ぴしりと姿勢を正して向き合う巽に、男の目がぱちりと瞬く。
そして習うように再びぺこりと頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いします。俺は…剣士ではないので、僅かな助力しかできませんが」
「成程、隠の隊士と。その風貌なら一般市民にも見える。上手く変装できていますね」
「あ…ハイ」
任務の事後処理や情報集めなど、剣士達の補佐を行うのが隠の仕事。
炎柱の手を補う為であれば、戦闘力は必要ないだろう。故の隠だ。
しかし隠の素顔はいつも黒子のような頭巾に隠されている為、見たのは初めてだった。
暗い髪色に暗い目色、痩せ過ぎでもなく肥え過ぎでもなく。ぱっと見は特に目を惹かない極々普通の一般男性のような印象だ。
思わずまじまじと見てしまう巽の視線に、隠はそそくさと背中を向けた。
「話は聞きました。車掌の遺体が発見された駅へ向かうと。お供します」
「うむ!」
颯爽と歩き出す杏寿郎にはっとすると、巽も慌てて後を追った。