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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第30章 石に花咲く鬼と鬼



 他人にしては近しい距離に、その人影は立っていた。
 待機するように蕎麦屋の前でこちらを見ているその顔は、巽の知らない男だ。

 目が合えばぺこりと頭を下げられる。
 視界に映すまで気配を感じなかったからこそ驚いた。


(誰だ?)


 身形は鬼殺隊のものではない。
 黒を基調とした書生のような姿に日輪刀も持たず、身軽な姿で一人静かに立っている。
 しかし民間人と捉えるには奇妙な違和感があった。
 男の向けてくる視線が、先程の店主とは程遠い感覚を覚えるからだろうか。


「どうした? そんな所に立ち尽くして」

「! 炎柱…いえ」


 会計を済ませた杏寿郎が後から姿を見せれば、巽はほっと安堵の息をついた。
 何処の誰かは知らないが、鬼ではないだろう。
 柱である杏寿郎が刃を向けていないのだから。


「ああ、待っていてくれたのか。すまないな」


 しかし刃は向けずとも面識ある者だったらしく、声をかける杏寿郎を今度は凝視した。


「炎柱のお知り合いですか?」

「うん? 蛍の代わりのようなものだ。先程も店内にいただろう?」

「えっ?」


 指摘されてようやく気付く。
 店内を見れば、酒に溺れて寝潰れている客はそのままだが、背を向け一人茶を飲んでいた客の姿は消えていた。
 確信はないが、あの客が今目の前にいる男なのだろう。


(い、いつ外に移動したんだ…気付かなかった)


 余りにその気配が空気と化していたからだろうか。
 外に出る他の客に気付かなかったことに、巽は内心己を叱咤した。
 いくら相手が人間であろうとも油断し過ぎだと。


(柱が傍にいるからって怠けるな。情報伝達も立派な仕事だろ…!)


 巽は真面目な性格をしていた。
 仲間や友人相手であれば気さくで砕けた一面も見せるが、こと鬼殺のこととなると姿勢から意識を変える。
 だからこそ丁の地位にまで上り詰めた剣士の一人だ。


「しかし炎柱の継子の代わりとは…?」

「身の周りのことを多少な。今回の任務は俺だけでなく君を含めた複数の隊士達も就いている。上手く連携を取る為にも、足りない手を補ってもらう」

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