第30章 石に花咲く鬼と鬼
「…炎柱、本題ですが」
正にその無限列車について情報を伝えにきたのだ。
「その無限列車、所在がわかりました。さる機関庫に人目につかぬよう搬入されたとの情報が」
「そうか…うん、うまい!」
細切りにした人参に牛蒡、玉ねぎに剥き海老。それらを大きなかき揚げに変えたものを器用に箸で口へと運ぶと、たった一口で半分平らげた。
ざくりと音を立てる触感が楽しく、噛めば噛むほどじゅわりとうま味が広がるかき揚げは病みつきになりそうだ。
うまいうまいと連呼する杏寿郎の食事風景は最初は驚いたものの、見慣れれば任務報告を止める程でもない。
巽は真剣な面持ちで先を続けた。
「無限列車に向かいますか?」
「うむ! だがその前に車掌の遺体が発見された駅を見聞してみよう」
「駅、ですか?」
「何か情報が掴めるやもしれん」
ざくり、と二口でかき揚げを完食した箸は再び蕎麦へと舞い戻る。
ずぞぞっと啜り上げてはうまいと噛み締め。
ごくりとつゆ出汁を飲み干してはうまいと叫び。
巽が食べ終えるよりも早く、杏寿郎は何杯目かの蕎麦を見事に完食していた。
「どれも大変うまい蕎麦だった! ご馳走様!」
「まいど」
「無償で立派なかき揚げまで頂いてしまったな。その心意気がとても身に染みました!」
景気は悪いと言いながら、美味いものは美味いと惜しみなく提供してくれた。
その心遣いが天晴れだと褒め称える杏寿郎に、店主は強面の顔に滅多に見せない笑みを浮かべていた。
「あんたみたいな客なら何杯だって作ってやるさ。また来なよ」
「ありがとう!」
店主の言葉に頷くことはなく、一礼した杏寿郎が勘定を済ませる。
店の戸の前で見守っていた巽は何気ないその光景を意味深に見つめた。
鬼殺隊は明日をも知れぬ身。
単なる口約束だとしても一度結び付けたものは必ず実行しようとする杏寿郎だからこそ、その言葉の重みを知っている。
(鬼をも鬼殺隊と結び付けた人だからな…)
だからこそ安易には口にしないのだろう。
自分もそんな覚悟を持たなければと、決意するように頷き店の外へと顔を向ける。
「うわっ!」
誰もいないと思っていた廃れた繁華街の道。
その視界に入り込んだ人影に思わず声を上げてしまった。