第30章 石に花咲く鬼と鬼
「だから誓って怪我は負いません。ただ切り裂き魔を引き摺り出したいだけです。師範は継子である私を信用して下さらないのですか」
「…む」
杏寿郎の腹に響くような威勢のいい声には慣れているのか。折れることなく挑み続ける蛍に、初めて杏寿郎の勢いが止まった。
「…しかしだな…」
「なんなら手の届く所で見張ってくれていいです。そしたら京都の任務ような二の舞にはならないから」
「…ううむ…」
「…私では力不足でしょうか」
「っそんなことはない!」
それでも頸を縦に振らない杏寿郎に、蛍の肩が僅かに下がる。
ぽつりと零れ落ちた小さな小さな弱音を、杏寿郎は聞き逃さなかった。
今までにない声の圧で即座に否定する。
「蛍の実力は買っている。過信でもない、俺が一番傍で見てきた。切り裂き魔の収穫はなかったが、僅かに確認できた痕跡から見るところ相手は十二鬼月ではないだろう。そんな悪鬼に君が遅れを取ることはないと思っている!」
「…だったら…」
「だからこそだ! 最近の体調も含めて君のこンぶッ」
握り拳を作って尚も告げる杏寿郎の声が上がる。
しかしそれは皆まで口にできず、光の速さで伸びた蛍の手が平手打ちをする勢いで塞いだ。
「…こんぶ…?」
「すみません。少し二人で話し合ってきます」
「え?」
「すぐに終わりますから」
「あっ炎柱…!?」
容赦なく炎柱の口を片手で塞いだまま、にっこりと蛍が巽に笑顔を向ける。
後ろで待機していた隠達にも頭を下げると、これまた光の速さで路地裏へと引っ込んでしまった。
自分よりも遥かに身長のある杏寿郎を、片手で軽々と担いで。
「…なんなんだ?」
残されたのは、疑問符を頭に浮かべるばかりの一隊士。