第30章 石に花咲く鬼と鬼
「私なら子供にも擬態できます。それなら切り裂き魔をおびき寄せ」
「ならない」
「…何故ですか。私は鬼です。例え切り刻まれても後遺症なんて残さないし、そもそも切り刻まれる気もな」
「駄目と言えば駄目だ。どんな理由であれ蛍を餌にする気はない」
「っこれは任務です師範」
「そうだ任務だ。だから被害の少ない最善の方法を選ぶ」
「私情じゃなくて?」
「私情じゃない!」
何を言っても聞く耳を持たない杏寿郎に蛍がジトリと疑いの目を向ければ、応えるように師の声も上がる。
あの炎柱相手に意見を申す継子がいようとは。
それも相手は鬼なのだ。
唖然と目を見張る巽の前で、蛍は強い金輪の双眸を負けじと見返した。
「合理的に考える師範なら、人よりも鬼の私を使った方が得策だと言いそうな気がしますが」
「人の囮も使わない。悪鬼はこの足で見つけ出す」
「それで見つからないから別の方法が必要なのでは」
「だとしても蛍を餌にはしない」
「これでも少しは私も強くなりました。師範なら継子の腕を見込んで下さい」
「勿論腕は見込んでいる。朔ノ夜の能力も素晴らしいものだ。だがそれとこれとは別の話!」
「なんで」
「鬼だからと軽率に怪我を負っていいことにはならない」
「はい師範」
「うむ! 申してみろ!」
段々と互いの声が早くなる。
時折鋭い喝を入れるように跳ね返す杏寿郎に、とうとう蛍の手がびしりと挙手するように上がった。
「まずそこから違います。怪我を負う前提で任務に向かったりしないです私。痛いのなんて嫌い。殴られるのだってごめん。切り裂かれるなんて真っ平!です!」
鬼でありながら人間のようなことを言う。
それも鬼殺隊士とは似ても似つかない精神論だ。
怪我を負ってでも血反吐を吐いてでも悪鬼を倒す。そんな誇り高い思考など皆目見当たらず、巽はぽかんと開いた口が塞がらなかった。
変わった鬼だとは聞いていた。
炎柱の継子になるくらいだ、異質な鬼だという認識もあった。
しかしなんだこの鬼は。
予想していたどんな鬼とも違う。