第7章 柱《参》✔
それからの帰り道は、あっという間だった。
行きは緊張を解す為に、お館様の使いの鴉の話を色々聞いてこれまたあっという間だったのに。
帰りは、別のことで悶々と考え込んでしまったから。
蜜璃ちゃん達の「お館様の凄いところ」という会話に話半分で相槌を打っていれば、見慣れた藤の檻が見えてくる。
「今日はつき合ってくれてありがとう。皆がいてくれて、助かりました」
「そう? 私達、何もできてないのに…あ! あまね様には蛍ちゃんの素敵なところ、たっくさんお話してきたからねっ」
そ、そうなの?
いつの間に。
「…大丈夫か? 彩千代少女。覇気がないように見受けるが」
話もそこそこに檻の中へ戻ろうとすれば、やんわりと問われた。
珍しい静かな杏寿郎の問いに、思わず目が止まる。
…悩んでいたことは、どうやら見破られていたらしい。
「うん、ちょっと。疲れただけだから…」
「…そうか。ならば今日の稽古は止めておこう」
わあ…まさかこの後に稽古付ける予定だったなんて。
流石に鬼の私も、その予定は頭に組んでなかったよ…。
流石、地獄の鍛錬者。
「では茶でもどうだ? 君は茶を飲まないだろうが…彩千代少女にとって、夜はまだまだ長いだろう」
それでも引き下がらない杏寿郎をまじまじと見ていたら、ふと気付いた。
これは…訓練やお茶がしたくて、話しているんじゃない。
「好きな話をするでもいい。俺も、幸い時間はある」
もしかして…気遣って、くれてるのかな。
静かな声でゆっくりと話す杏寿郎は、まるで言葉を選んでくれているようにも見えた。
「…どうだ?」
…やっぱり気にしてくれてる。
あまねさんとどんな話をしたか知らないけれど、もしかしたら…心配、してくれてたのかな…。
単なる勘違いかもしれない。
それでも、そう思えただけでよかった。
気持ち悪いものと思われて当然だと、自分でも思うから。
私のことを得体が知れない鬼だと言っていた杏寿郎に、ここまで歩み寄って貰えたことが凄く、嬉しくて。
…お館様も杏寿郎自身の決断だって言ってくれたんだ。
歩み寄ってくれているその思いには陰りなんて一つも見えないから、胸がじんとする。