第30章 石に花咲く鬼と鬼
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夜の静けさが通る道。
冷たい風がはたはたと、壁に貼られた幾つもの張り紙を揺らしていく。
いつから張られたものなのか。色あせて文字が読めない程ではないが、破り捨てられたものもある。
まるで感情的に張り紙を裂いたかのように。
「……」
夜道を通る鬼殺隊士が一人。その様を横目で見通すと、整った眉を僅かに潜めた。
張り紙は全て行方不明者を求める声のものだ。
【尋ね人、探しています】
【見つけたらご一報を】
【行方不明ニテ情報求ム】
東京のとある一区。
大きな街へと繋がる駅所が存在するその町も、田舎というには程遠い。
民家の他に宿屋や飯屋も幾つも並ぶ。
それでも閑散としているのは、その行方不明者が後を絶たない事件も関与していた。
町の裏通りや家の影。更には列車の中にまで。鋭い刃物か何かで人々を斬り付け、時には死に至らしめる〝切り裂き魔〟が出るという。
体中を至るところを切り裂かれ絶命している遺体もあれば、時にはごっそりと肉片を失くし絶命している遺体もある。
隠や人々から得た情報により、切り裂き魔は鬼である可能性が非常に高いものと判断された。
故に幾人もの鬼殺隊士が切り裂き魔討伐の任務に当てられたが、未だに成果は出ていない。
何せ情報だけは噂と笑い飛ばせない程にあるというのに、肝心の切り裂き魔の目撃情報は一つもないのだ。
どんな容姿をしており、どんな性格をしており、男なのか女なのか。鬼なのか人なのか。
ただ一人だけその情報を口にできたのは、昨晩被害に合った一般人女性。
発見された時は体中を鋭い刃物で切り裂かれた跡があり、血に染まっていた。
もう少しでも見つけ出すのが遅れていたらその命はなかっただろう。
繋ぎ止めたのは、的確な判断と迅速な行動で見つけ出した一人の柱。
(──此処か)
その柱に会う為に、鬼殺隊士の男は閑散とした繁華街の道を進んでいた。
やがて足を止めたのは一軒の蕎麦屋。
見上げた看板の上には一羽の鴉が停まっている。
まるでそれが目印であるかのように、じっと静かに見下ろしてくる鎹鴉は一般隊士の鴉とは異なる空気を感じた。