第29章 あたら夜《弐》
「ぁ…姉上には、不死川様も赤裸々に語る節があるとお見受けしたので…っ姉上に頼みたいと思います!」
「む…ぅ。ならば俺だって不死川との仲は深いぞ…! 男同士の話もする!」
「それはそうかもしれませんが…っ」
「えっと…私は別に不死川と仲良ししてる気はないから、杏寿郎に譲ってもいいん」
「ダメです!」
「せ、千くん?」
「俺は姉上に頼みたいんです。男同士ならばどうか俺の気持ちも汲み取ってください兄上!」
「は…っ!」
必死に両手拳を握って捲し立てる千寿郎に、雷が落ちたかのような衝撃で固まる杏寿郎。
ぷるぷると体を震わせたかと思えば、くっと唇を噛み締めて天を仰いだ。
「あいわかった! 千寿郎も男になったのだな…!」
「はい!」
眉間を押さえて迸る思いを堪えるかのような姿を見せる杏寿郎の心は、申し訳ないが千寿郎にはいまいち理解し兼ねる。
それでもこの流れに乗っておかないと世話焼きな兄はまた手を出すだろう。
こくこくと必死に頷く千寿郎に、天を仰いで感極まるように体を震わせる杏寿郎。
(なんだろう、これ)
そんな二人を見守る蛍は、どこから突っ込めばいいのやらと開いた口はそのままに立往生。
「…とりあえずこの鉢植えは荷物にしまうね」
いそいそと鉢植えを風呂敷に包み直し、何やら熱い空気を醸し出す二人に背を向けたのだった。