第7章 柱《参》✔
「お館様」
声は唐突だった。
いつの間にか戻ってきた時透無一郎の存在に、心臓が跳ねる。
足音がしなかったから驚いた…。
だけどお館様はわかっていたようで、少年が現れる一歩手前で私の前から身を退いた。
「伝達は終えました。あまね様は柱と共に中庭に戻られるとのことです」
私とお館様の会話は聞こえてなかったらしい…かな。
ちらりと私を見た後、淡々と報告をしていく。
「それじゃあ私も蛍を送りに行こう」
「それには及びません。後のことは俺が。もう夜も遅いので、お館様はお身体をお休めになって下さい」
「そうかい? ならお言葉に甘えようかな。ありがとう、無一郎」
深々と頭を下げた少年に、ついて来いと目で促される。
慌ててお館様に深くお辞儀をすれば、見えていないはずだろうに、にこりと笑顔を返された。
「短い時間でも楽しかったよ。もっと蛍と色んな話がしたかったけれど。…次に会うのは半年後かな」
半年後…って、柱合会議のことだ。
「それまで君に健やかな時があらんことを」
健闘を祈ると、言われたような気がした。
短い時間だったけど十分だった。
お館様は、きっと…鬼としての私のことを、受け入れてくれている側だ。
「ありがとう御座いました。私も…話せて、よかったです。お館様、と」
その名を呼んだのは、初めてだった。
それでも、鬼殺隊の当主であることは二の次。
まっさらな色を持つこの人に、曇りなき思いで受け入れて貰えたことが、ただ純粋に嬉しくて。
もう一度深く頭を下げれば、やっぱり見えてないはずだろうに。
お館様は綻ぶような笑顔を向けてくれた。
「…お館様と何を話したのか知らないけど、」
暗い廊下を一列に進む。
お館様と別れて早々、あんなに無口だった時透無一郎に話し掛けられた。
「あの方に変に取り繕う真似なんて見せたら、斬るから」
それも敵意満々に。
前方を進んでいた顔が振り返って、気怠げな目が私を映す。
そこには無関心そうな表情はなく、無表情ながらに冷たい色を放っていた。
会話は聞こえてはいなかっただろうけど、きっと勘付かれてたんだ…流石、霞柱。