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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第7章 柱《参》✔



「ああそれと。杏寿郎も世話になったようだね」

「杏寿郎、ですか?」


 今度は杏寿郎?


「おや。随分親しいみたいだ」

「あっ…いえ。煉獄さん…ですか」


 しまった。
 いくら杏寿郎がその呼び方を許していても、相手は柱。
 鬼である私より遥かに鬼殺隊での地位は上なのに。
 当主の前で呼び捨てにするなんて。

 慌てて頭を下げれば、お館様は気にした様子なくくすりと笑った。


「いいんだよ、その方が私も嬉しいからね。杏寿郎は真っ先に蛍のことを斬首すると言ってきたから尚のこと」

「その件では…煉獄さんを止めて頂き、ありがとうございました。お陰で今の私の命はここにあります」

「私は何もしていないよ。全ては杏寿郎自身が決断して行ったことだ」

「それでも導いて下さったのは確かです」

「導いた、か……杏寿郎は他者の心の機微も繊細に拾える子だ。だけど早急に答えを出したがる性格だから、それ故に踏み外すこともある」


 せっかち、てことかな…それはなんとなくわかる気がする。
 鍛錬中体が根を上げても待たずに次だと急かされたこともよくあったし。
 …地獄だったなあれ。


「柱であっても皆完全な人間じゃない。私にだって間違いはある。…でも杏寿郎には後から己を責めるような後悔はさせたくなかったんだ。奮い立っているあの子にはね」


 奮い…立つ?
 どういうこと?

 視線を僅かに下げて呟くお館様には、問いかけようにもできなかった。
 お館様自身もそれ以上は口を開かず綺麗な笑顔で返される。
 あ…これ以上は、きっと何も聞かせてもらえない。


「色々言いはしたけれど、ありのままの蛍の目で見て、耳で聞いて、生まれたものを感情に起こしてくれたらいい。鬼の体の中に人として心を育てて欲しい。私が望むのはそれだけだから」

「…はい」


 それは義勇さんや杏寿郎へのことなのか、私自身のことなのか…多分どちらもなんだろう。
 最後は優しく微笑むだけのお館様に、私にはやっぱり頷く以外の選択肢はなかった。

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