第7章 柱《参》✔
「何よりも誰よりも理解できるはずの自分自身が、一番に自分を否定している。だから柱の中でも誰とも馴れ合わず、いつも距離を置いているんだ」
あ…蜜璃ちゃんが似たようなことを言っていた。
義勇さんは、柱の皆と接点を持とうとしない人だったって。
「そんな誰にも関心を持たない義勇が、初めて傍に置くことを許したのが君だったんだよ。蛍」
え?
…で、でも…それは、監視という名目があるからであって。
義勇さんにとっては単なる義務なだけだ。
「例えそこに"鬼"と"柱"という関係性があったとしても、私から見れば大きな一歩だ。だからこそ蛍に頼みたい」
まるで私の心が読めているかのように、やんわりと頼み込まれた。
「あの…その、頼みたいことって…?」
「そんなに難しいことじゃないよ。ただ、あの子を見ていて欲しい」
思わず身構えれば、余りに拍子抜けするような願いに目を瞬く。
…それだけ?
「あの子は、すぐに独りきりになろうとする。そして独りでも歩いていける強さを持っている。だから尚のこと心配なんだよ」
すっと伸びたお館様の手が、私の胸に翳される。
触れてはいない。
でも触れるぎりぎりの、ほんのり温かさを感じるような距離で。
「独りでも、人は息の仕方を知っている。しかし言葉を生むのは? 詩を紡ぎ、歌を奏でるのは? 他者という存在があるからだよ。独りきりでは"こころ"は生まれない」
「……」
「義勇には、そのこころを失くして欲しくないんだ。あの子は本当は誰よりも優しくて、無垢な愛を持った子だったんだから」
何か思いを馳せるようにして、お館様の白い瞳が細まる。
「だから義勇が踏み出せた君に、できるなら見ていて欲しい。お願いできるかな」
天元に番犬と言われるくらい監視してくる義勇さんだから、言われる前からとっくに傍にいる。
否応なしに一番見ている柱だ。
…そうは思ったけど、お館様のこの顔を前にして言う気にはならなくて。
代わりに一度だけ頷いた。
「ありがとう」
気配で悟ったのかな。
本当に嬉しそうに微笑むお館様から、察する。
この人は本当に、自分の子供と称する隊士達のことが大切なんだろうな…。