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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第7章 柱《参》✔



「それでは私の話はこれまで。蛍と話せて良かったよ」


 切り替えるように、ぱちりと両手を合わせる。
 その人の姿を見て、ようやく肩の力が少しだけ抜けた。


「無一郎。傍に私の使いがいるはずだから、あまねへの伝言を頼んでくれるかな。話は終わったから、と」

「御意」


 音もなく立ち上がり部屋から出ていく少年に、私も頭を下げて座布団から身を退く。


「蛍」


 だけど部屋を後にする前に、声を掛けられた。
 見れば口元に、立てた人差し指を当てているお館様の姿が。
 なんだろう?


「もう一つ。君に個人的に頼みたいことがあるんだ」


 幾分抑えた声で告げられる。
 時透無一郎が席を外した今、実質的にこの場にはお館様と私の二人きりだ。


「義勇のことだよ」


 義勇、さん?
 思いもかけない名を聞いて、思わず目が丸くなる。


「蛍のことは、連れて来た義勇にほとんど任せている。どうかな、彼とは。上手く関係を築けているといいんだけれど」

「上手く…かは、わかりませんが…」


 私より長い付き合いのはずなのに。
 なんでそんなことを訊くのかわからなかったけど、すんなりと答えは出てきた。


「私を…見つけてくれたのが、義勇さんで良かったと、思っています」


 彼じゃなかったら、今の私はきっと此処にいない。
 それは確信できたから。


「そう」


 私の答えが満足だったのか、嬉しそうに微笑まれる。
 えっと…大袈裟なことは言ってないけど、な…。


「義勇はね、水柱として申し分ない実力者の持ち主なんだ。力も、知識も、意志も、柱としての必要なものは供えている。だけど彼に足りないものが一つだけある」

「足りないもの…?」

「"覚悟"だよ。誰よりも努力してきた者なのに、その本人が一番自分を認めていない。他者には強さも優しさも貫けるのに、自分のこととなるとどうしても後ろ向きになってしまうんだ」


 そう、なの…?

 驚いた。
 瞬き一つで刀の切っ先を突き付けられる程の、実力を持つあの人が。
 何処までも冷静な判断で、時に厳しく叱咤できるあの人が。
 自分を認めていない?

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