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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第29章 あたら夜《弐》



「血の小瓶だと…」

「父上。蛍は静子殿の血を一滴も飲んではいません。全て流れ出た為、小瓶もその場で処分しました」

「……」

「無論、俺の血も飲んではいません。それらは今宵に不要なものだと蛍自身が判断した為です」


 静かな声で告げる杏寿郎に圧はない。
 しかし揺るぎない双眸は槇寿郎から逸らされることなく、それら全てが事実だと語っていた。

 昔から見てきた息子の目だ。
 そこに嘘がないことは槇寿郎もわかっていた。
 無言でふいと顔を逸らしたのが何よりの証拠。


「よし! では千寿郎!!」

「えっ?」

「今からでも遅くはないッ花火をしよう!」


 この話はこれで終わりだと、無言の父の意を杏寿郎も汲み取っていた。
 途端にくわりと、仕切り直すように威勢良く発案する。


「打ち上げ花火は難しいが、我が家でも遊べる花火なら売っているはずだ!」

「で…でも、この季節に花火なんて…」

「捜せばきっとある!!」

「は…はい!」

「むっ?」

「姉上?」


 そこにつられるように挙手したのは蛍だった。
 杏寿郎の勢いに吞まれまいと、慣れない声を張り上げて告げる。


「私もっ皆でしたいことがあります…!」


 その姿に、そっくりな兄弟の瞳はきょとんと丸くなった。
 一瞬早く、ぱぁっと光が差すような明るい笑顔を浮かべたのは杏寿郎だ。


「いいぞ蛍! ぜひそれが何か教えてくれっ俺もしたい!」

「いいの?」

「勿論!」

「あの、帰ったら花火もやりたいですっ」

「勿論だ! 皆でしよう!!」

「じゃあ、あの」


 どんどんと進む二人の会話に、千寿郎と槇寿郎は入り切れていない。
 げんなりとした表情を見せる槇寿郎はそもそも入る気もなかったが、蛍の視界にはきちんと収められていた。


「皆、私について来てくれるかな」


 幼い千寿郎の手を願うように両手で握ると、杏寿郎と槇寿郎も余すことなく目線で呼びかけ、誘う。


「ついて行く…です、か?」

「む。何処に?」


 そっくりな瞳をまたもや丸くし、同じ動作で頸を傾げる。
 背丈は大きく違うものの、どこからどう見ても兄弟である二人の反応に。


「それはついてのお楽しみ」


 蛍はくすりと笑った。











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