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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第29章 あたら夜《弐》



 互いに熱い息をつく。
 ようやく唇が離れたのは、力なく蛍が突っ伏した為だった。
 広げた腕で杏寿郎が抱き止めれば、くたりと小さな頭が肩に乗る。


「ハァ……蛍…大丈夫か…?」

「…ん」


 いつも最初に声をかけるのは杏寿郎から。
 労わるように伺う優しい声に、蛍は身を預けたまま小さな声で頷いた。


「気持ち…よかった…」


 素直な感情を、余韻の中で告げてみる。
 柔い焔色の髪に頬を擦り寄せれば、見える喉仏がこくりと嚥下した。


「俺もだ…良過ぎて、偶に歯止めが利かなくなる」

「うん」

「だから、今はあまり煽らないでくれ…」

「…ふふ、」

「蛍?」

「気持ちいいって言わせたり、止めたり。杏寿郎、忙しいね」


 こてんと肩に顔を預けたまま。間近にある月夜の双眸を見上げて、くすりと蛍が柔く微笑む。


「物足りない?」

「…少し」


 正直な欲を吐露する杏寿郎の手は、言葉とは裏腹に蛍の着物を丁寧に整えていく。
 胸元を隠し、帯の強さを調整し、裾の崩れを直す。

 素直な吐露は大きな子供のようで、所作は無駄のない大人だ。
 なんとも一言では形に出来ない杏寿郎らしい姿に、生まれるのはどうしようもない想いだけ。


(ああ、好きだなぁ)


 そんな杏寿郎だから毎夜、肌を重ねる度に甘やかしてしまうのだろう。
 しかし今回ばかりは同じに愛らしい弟を放ってはおけない。


「じゃあ、私の体が杏寿郎の精を全部飲み切るまで。こうしていて、いい?」


 これ以上のまぐあいはできないが、せめてもと重ねた肌をぴたりと隙間なく密着させる。


「私も、まだ杏寿郎を感じていたい」


 呼吸を使い全神経を集中させれば、体内に放たれた精を己の糧に変えるのは造作もなくなった。
 その呼吸を少しだけ遅らせて、じんわりと体中に浸み込ませていく。
 愛おしいものの命を欠片を。

 乱れた焔色の髪を手櫛で優しく整えて、見慣れた額に恭しく口付ける。
 再び身を預けるようにぴたりと頬に頬を添えて蛍が告げれば、凛々しい黒眉は忽ちにへにょりと下がった。

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