第7章 柱《参》✔
「そうだね…それじゃあ言い方を変えるよ。私は君のその人で在り続ける心が、愛しいと思っている」
…愛しい?
「自分自身を認めて前に進める者は少ない。誰しも迷いながらこの世を生きている。君も同じだよ、蛍。鬼に成りながら、戸惑い躓きながら、それでも手探りに道を探している。そんな君が私は愛おしい」
「……なんで…」
そんな真っ直ぐに、そんなことが吐けるんだろう。
この人の声は嘘偽りない。
理由はわからないけど、それだけはわかる。
だから不思議でならなかった。
なんでそんな簡単に、愛おしいなんて言えるの?
私は貴方の滅しようとしている鬼なのに。
「私が手を下さなければならない鬼は一人だけだ。君に非はない。その男に鬼にされ、同じ道を強制された。それでも君は他の道を歩もうとしている。そこに慈しみを感じるのは可笑しなことかな?」
「…でも…私、は…人を…殺しまし、た…」
それは許されるべきではない罪だ。
「君が人を殺すに至った経緯は?」
そんな質問が来るとは思っていなかったから驚いた。
「改めて自我を保つ姿を見てわかった。君は、快楽や空腹の為に人は殺さない。それでも手を下してしまったのは、並々ならぬ理由があったんだろう?」
思わず顔が上がる。
目の前にあったのは、変わらず見えていない眼で私を視てくる白い瞳。
「だからと言って人を殺したことには変わりない。君も他人に赦(ゆる)されようとは思っていない。だから、せめて君の歩もうとしている道を阻めたくはないんだよ」
「……」
「君がいつか、その罪を背負って歩き出せるようになるまで。そんな自分を、いつか抱きしめられるようになるまで」
「…っ」
上手く、言葉が出てこない。
声が詰まる。
なんだか自分の心の弱い箇所を、優しく撫でられたような気がした。
「それが今はできない君だから、私が抱きしめていたいんだ。此処にいる限り君も私の大切な子供だから」
見ず知らずの他人に、子供だと言われて嬉しいことなんてない。
なのにこの人から伝わってくる大きな包容のような優しい色は、簡単に私を包み込んだ。
──白い、あの世界と同じ。
姉さんの亡骸と出会った、あの意識の彼方と同じ色。
まっさらな、安心するような、泣きたくなるような、そんな色。