第29章 あたら夜《弐》
「家族揃っての風鈴だな」
「煉獄さんちの風鈴だね」
「無論、蛍も」
「うん?」
「煉獄さん、だ」
未来の、と付け足して手を差し伸べる。
杏寿郎のその手と顔を交互に見ると、蛍は仄かに頬を赤らめて嬉しそうにはにかんだ。
「うん」
ちりん、と風鈴が歌う。
音の狭間で触れ合う手と手。
「しかしいいな、あの風鈴。持ち帰って家に飾りたいくらいだ」
「あはは。それは嬉しいけど、きっと槇寿郎さんが凄い顔するから無理かなぁ」
「むぅ…」
「それに煉獄さんちの風鈴はもうあるでしょ? 瑠火さんの」
「確かに。千寿郎がいたく気に入っている」
「私もだよ。あの風鈴を見ていると心が穏やかになるというか…瑠火さんの思い出も沢山詰まっているものだし」
「母上の思い出か。それは興味があるな。一度道場で鍛錬を積む蛍の傍らで見た気がする」
「ああ、うん。それもあるけど。でも思い出っていうのは──…」
「ぁ…ぅぇ…っ」
「「!」」
会話は突如として止められた。
遠くから聞こえてくる千寿郎の声に、大袈裟なまでに反応した二人が振り返る。
「そろそろ行かないと! 杏寿郎、出店っ」
「うむ! 買い込んで千寿郎の下に急ごう!」
穏やかな時をいつまでも過ごしていたいとも思ったが、今宵は"家族"で楽しみに来ているのだ。
握り合う手はそのままに、慌てながらも楽しむように弾む足取りで二人は小走りに駆けていった。
「おやおや。まるで無邪気な子供だね」
からからと陽気に笑う圷に見送られて。