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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第29章 あたら夜《弐》



 屋台の列を少し離れた所。
 そこに杏寿郎の目的はあった。

 縁日のようなこの祭り事では、神幸祭ならではの神輿渡御や祭礼行列なども見られる。
 その一環なのか。杏寿郎が足を向けた先には、ちりんちりんと風靡な音を鳴らす景色が広がっていた。


「わあ…」


 思わず足を止めて感嘆の息をつく。
 蛍のその視界に広がっていたのは、無数の風鈴の群だ。

 赤に緑に黄に青。
 様々な無数の色が連なる風鈴が、木製の回廊にぶら下がり並んでいる。

 まるで京都での鳥居のトンネルを思い起こさせるような、風鈴の回廊。
 あの時と大きく違うのは、視界をきらきらと彩る沢山の色と想いだ。


「すごい。こんなの初めて見た」

「風鈴回廊だ。度々祭り事では見られるものだが、この風鈴回廊は一味違っていてな」

「そうなの?」

「近くで見てみればわかる。おいで」


 手を引かれるままに、杏寿郎と風鈴のトンネルをくぐる。
 人の行き交う微かな空気に、ちりんと儚い音色を鳴らす風鈴たち。
 儚げながらも視線を惹き付け離さない雅な姿に、蛍は頸を曲げて見上げながらゆっくりと道を進んだ。


「きれい…」


 自然と口をついて零れ落ちた。
 月房屋で見上げていた風鈴への感情とは、似ても似つかない。
 花に鯉に、水玉に縞模様。
 愛らしい姿で飾る風鈴たちは、蛍の視界と耳を心地良く楽しませた。


「千くんにも見せてあげたかったな…」

「風鈴を見ると父上が良い顔をしないからな。こういう機会でないと連れて来られなかった」

「…瑠火さんの思い出が詰まっているから?」

「うむ」


 桔梗の花が描かれた、傍から見ても大事にされているのがわかる煉獄家の江戸風鈴。
 そこには命の灯火を消す間際まで傍にいた瑠火の想いが、一層詰まっていることは蛍も知っていた。
 血鬼術によって直接感じたのだから間違いはない。


「そっか…」

「また次の機会に連れてこよう。千寿郎にも見せてやりたい」

「うん」


 瑠火との思い出が人一倍少ない千寿郎が、何より大切にしている江戸風鈴だ。
 次は必ずその幼い手を引いて共に歩きたいと願いながら、風鈴を見上げていた蛍はふと目を止めた。

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