第7章 柱《参》✔
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「其処に座って」
お館様なる人に連れて来られたのは、拍子抜けするくらいに普通の部屋だった。
さっきの八十畳程もあった広間が嘘みたいに、こぢんまりとした部屋。
其処に敷かれている座布団に促されて腰を下ろす。
向き合うようにして同じく座布団に腰を下ろすと、産屋敷…お館様、は慣れた手つきで傍の行灯に火を灯した。
ほんのりと明るくなる部屋。
小さな部屋だけど、最低限の物だけで整頓された一室は綺麗な空間だった。
最後に入ってきた時透無一郎はと言うと、部屋の隅に腰を落とすと、お構い無くと言うかのように片手をひらりと振ってくる。
「俺のことはお構い無く」
あ、本当にそう思ってたんだ。
「無一郎は其処にいてくれるだけでいいよ。手間を取らせてしまうけれどね」
「お館様の指示なら従います。その鬼には興味ないけど」
そう告げる少年の気怠げな目は、本当に私に関心を示していなかった。
「これで心置きなく話せるね。蛍」
…もしかして。だからあの少年を選んだのかな。
霞がかった白群色と同じく、その気配も空気に同調するように薄い。
気配を消すとか殺すとか、そういうことじゃない。
時透無一郎自身が、本当に私に一切気を向けていないんだ。
…見張られている感じがしないことに、ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
「では改めて。私は鬼殺隊を作った産屋敷一族の末裔。耀哉と申します」
「わ…私は、彩千代蛍、です。はじめ、まして」
優しい微笑みに柔らかい物言いだけど、やっぱり緊張は走る。
正座した膝の上で拳を握って、どうにか第一声を絞り出した。
背筋が伸びる。
「彩千代 蛍──綺麗な名前だね。…でも実は初めましてじゃないんだ。蛍とは、"久しぶり"。憶えているかな?」
「…え?」
いきなり意外な言葉を投げかけられて驚く。
いつ出会ったの?
もしかして鬼殺隊に連れて来られた時?
柱の幾人かの顔ぶれは憶えていたから、もしかしたらこの人にも会ったのかもしれない。
というか普通なら組織の主に会わないことがまず可笑しい。
なのに慌てて思考を巡らせても、目の前の一度見たら忘れない顔は思い出せなかった。
なんで?